臆病者の覚悟


「ええと、ええと」
フウセンはいつものように機器をいじっている。
今夜は、初めてのことがある。
それは、夜の空に向けて電気を送るということ。
基本的に、電気と電波は似たものである。
大まかにいって、
電波は、増幅することによって人々の気分などに影響をする。
電気は、大体動力に還元されるものと思って差し支えない。
どちらも化石からでてきたものを、使うという意味では同じところだ。

フウセンのいる電波局は、
天狼星の町の比較的上の方にある。
地位が上なわけではない。
電波が届く、電波の発信という意味で、ここにあるに過ぎない。
フウセンは電波と電気の合成を試みている。
元が同じようなものだから、うまくいくはずとフウセンはもくろんでいる。
カミカゼが、電気を電波局に向けるように、みんなに連絡しているらしい。
さっきもカミカゼが来たけれど、
今のところおおむね問題はないみたいだとフウセンは思う。

しかし、今の電波局が危険であることを、
フウセンはカミカゼに黙っていた。
動力に使うはずの電気と、
気分に大きく影響を与える電波。
それが混ざってフウセンの機器で増幅している。
「まぁ、いいけどね」
フウセンには、ある種の覚悟がある。
先ほど聞こえた爆発。
それみたいなことが電波局で起きるかもしれない予感。
吹っ飛ぶのはフウセンだけだ。
それが、電波を扱うものとしての責任だ。
空を行くオウムガイが、
カミカゼに言わせるところの、雇い主としての責任を果たすように、
フウセンはこの町の電波の責任を取る。

ちりちりぴりぴりする感じ。
ここしばらくどこかからかやってくる電波が、増幅されて、どうにも居心地がよくない。
フウセンはその感じも、混ぜ合わせる。
みんなみんなまとめて、空のオウムガイの動力になってしまえ。
責任はフウセンが取る。
電波はフウセンの手にあり、
みんなの健全な生活も、多分フウセンの手の中にある。

正直フウセンは怖い。
失敗したらと考えてしまう。
泣きたくもなるし、逃げたくもなる。
それでもフウセンは電波局にとどまる。

フウセンは夜の空に、オウムガイが飛んでいるのを、見つける。
その方向に向かって、空中線を寄り合わせた、放電機を向ける。
ギムレットとソロバンの連携がうまくいっているなら、
この合成された電力は、オウムガイに巻き取られるはずだ。

フウセンは出力を上げた。


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