言葉をこえる


「バカヤロウが、ようやく上げやがったか」
壁にあいた大穴から外を見ていた、ギムレットがつぶやいた。
独り言のつもりだった。
フウセンがようやく出力を上げた。
それだけをつぶやいたつもりだった。
「ばか?」
こそっと、一言かけられたとき、
ギムレットは顔に出にくくても、大いに驚いた。
聞き覚えがないわけではない声。
それは、めったに店から出てこないもの。
見れば、ソロバンがいつものかぶりものをかぶって、ギムレットのあけた大穴の近くにいた。
「やあ」
「よぉ、店から出る気になったのか?」
「うん」
ソロバンはもともと言葉を長くつむげない。
長い言葉は構築式のそれだけだ。
「電波」
「ああ、フウセンが出力上げて放ったな、オウムガイの動力が加速する」
「うん、そうするようにしたよ」
ソロバンはちょっとだけ言葉を重ねる。
「ここから見えるのが、空?」
「ああ、夜だから暗い。でも、見えるこれが空だ」
「ぴりぴりするね」
壁の穴は、思ったよりも影響がありそうだ。
「早くふさいだほうがいいかもな」
「どうして?」
どうしてもこうしても説明しないといけないだろうか。
ぴりぴりするそれが害になりうるし、
空が見えたって、天狼星の町に何が変わるわけでもない。
ギムレットは懇切丁寧に説明しようとして、やめた。
なんとなくではあるが、ソロバンの疑問は、連鎖してきりがないような気がした。

結果、ギムレットは黙る。
ソロバンはじっと空を見ている。
「うん、加速してる」
「見えるのか?」
空の星並みに小さくなったオウムガイを、ソロバンは見えるという。
加速しているそれを、よしとしたらしい。
かぶりものが満足そうにうなずく。
「まだ、俺達の計算の中にある。まだ、な」
ギムレットは夜の空を見上げてつぶやく。
「構築式が大冒険なんだ」
ソロバンの言うそれを、ギムレットはよくわからなかったが、
ソロバンなりに、高揚しているのかもしれないとは思った。
言葉をこえて、電装と構築式が空を駆ける。
「お前もバカヤロウだ」
ギムレットはにやりと笑う。

ソロバンは首をかしげて、
そのあと、なんだかうれしそうにうなずいた。


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