伝播


ガラクタが、つまづき転びそうになりながら、
ひどい姿勢で走っている。
走り慣れていないし、元が結構な猫背である。
とにかく、伝えなくちゃと、それだけで。
むき出しになっている配管に足を取られ、派手に転げる。
痛いなどと感じることは、あとでもできると、
ガラクタはむくりと起き上がり、またひどい姿勢で走る。

ガラクタはカガミを見つけた。
通路の奥を曲がっていったのが見えた。
ガラクタは、とにかくカガミを呼ぼうとする。
息が切れて言葉が出てこない。
カガミがいってしまう、伝えなくちゃ、とにかく、マルの思いついた、あの、花を、
考えるのに、息が出て行く音ばかりがする。

瞬間、何かが走った。
形のあるものでない、何か。
ガラクタの内側を突き抜けて、走り抜ける何か。
びりびりと、痛みのように。

カガミがガラクタに気がついた。
通路の奥からやってきて、
ガラクタの頭をぽんぽんとなでた。
なぜかわからないけれど、
カガミはこれからハコ先生のところにも、
ガラクタの伝えようとしたことを伝えに行く気がしたし、
また、みんながもう、そのことを伝え合っているかのような気がした。

ガラクタは路地にうずくまる。
走って伝えようとしていたことが、
言葉なしで何か伝わっている、
何が起きた、あの瞬間、何が起きた。
植物学者では説明つかない何か。

「伝播がおきたね」
ガラクタが顔を上げると、被り物をしたソロバンが首をかしげていた。
「電波の伝播。ギムレットならきっと語ってくれる」
「でんぱのでんぱ?」
「電気が内側を伝えるんだ」
「それは……」
「うん、構築式では語りつくせないことなんだ。よくわからない」
「そうか……」
ガラクタはうつむく。
内側が伝わる。
ガラクタの伝えたいことが、カガミに言葉なしで伝わった。
それは電波の伝播だという。

「連鎖して町に広まるよ。一体何を伝えたかったんだい?」
ガラクタは息を大きくはいて、
「花を咲かすんだ」
と、つぶやく。
「はな」
ソロバンはやっぱりわからなかったようだが、
被り物をかぶっているのに、なんだか楽しそうに見えた。


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