演じるもの


戦艦ミノカサゴの中は、荒れていた。
ウゲツが乱している。
しかし、兵士も徐々に指揮系統ができてきたらしく、
最初のような不意打ちがしづらい。
それでもウゲツは、負ける気がしなかった。
ウゲツが重力を無視していることは、もう、伝わっているに違いない。
何の力かはウゲツはわからない。
いまだにわからない。
けれども、その力があることを、ウゲツも、国の兵士も、
わかった上で、戦いはこれからだ。

サクラが指示を出す。
あくまで、方向指示に過ぎない。
ウゲツはそこにいる邪魔な兵士を片っ端から倒す。
殴る武器は意外と丈夫のようだ。
ついでに、兵士も意外と丈夫なのが救いといえば救いかもしれない。
貧弱だったら、ウゲツも加減がきかない。
身体が変な方向になるまでの打撃を加えていたかもしれないなぁ、などと、
ウゲツは走りながら考え、
武器を構え、跳躍し、
不意をついて側面に張り付き、そこから、殴打する。
兵士の倒れるその身体を踏み、
さらに跳躍して奥の兵士に殴りかかる。
低い天井ではあるが、ウゲツは天井にぶつからないという確信がある。
何かが解放されている気がする。

サクラが、この先だと告げる。
ウゲツは汗にまみれた武器を持ち直し、走ろうとする。
あまり広くない戦艦の通路、
人影が一つ。

ウゲツは立ち止まる。
この人をどこかで見たことがある気がする。
ウゲツの頭の中で、オトギという人物がよぎる。
オトギ、彼はオトギだ。
多分サンカク写真館の写真の中の、オトギ。

「奇妙な技を使うらしいという報告があった」
「そこをどいてください」
「それは断る」
「では、敵とみなします」
ウゲツは、武器を構える。
オトギは銃というものを構えたようだ。
「一体、何のために君は空までやってきた」
「返して欲しいんです。力ずくでも」
「国とやることは変わらんな、力ずくでは」
オトギが困ったような顔をした。
「世の中味方と敵だけではない。強い弱いだけではない」
「……どういうことですか?」
ウゲツは攻撃も忘れて問う。
「誰かが役を演じなければならないこともあるんだ」

オトギは改めて銃を構える。
ウゲツは走り出した。


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