少女の眠り


ネココと呼ばれていたはずの少女は、
雰囲気を地上のそれとは、がらりと変えている。
サカナ大佐は、磁石をなくしたことによるものと推測するが、
それは、爆発物の近くに熱量があるくらい危険なものだ。
少女は馬鹿にしたように、くくっと笑う。
「ウゲツがすぐそこまで来ておるのぅ」
「そうか」
サカナ大佐は努めて冷静に言う。
「ぬしの手駒も脆弱なものよのぅ」
「この高度に侵入者があるとは思っていなかった。事実だ」
「ウゲツが来たのも事実よの。訓練をしなおしたほうがよいぞ」
言って、少女はにたりと笑う。
「生きて帰れたらのぅ」
生きて帰れるだろうか。
この爆発物のような少女が、
少し気まぐれに力を解放するだけで、
この戦艦も何もが灰燼に帰す。
「どうするかの?ぬしはどうしたいのじゃ?」
少女はにやにやと問う。
「兵器を持ち帰るのが、仕事だ」
サカナ大佐は、ぎりぎりのところで答える。
「逃げたいと言っておったじゃろう。わすれたかの?」
「逃げたいことは逃げたい」
サカナは嘘がつけない。
少女は見透かしたように笑う。

「それならば、わしはしばらく眠る」
「眠る?」
サカナは思わず聞き返す。
「意識をネココのそれも混ぜて眠る」
「それは……」
「目覚めたときに磁石がなければ、暴発もありうるのぅ」
「磁石が届くことを見越しているのか?」
「どうかのぅ。ウゲツならやりかねん」
少女はにたりと笑う。
「ゆめゆめ忘れるでないぞ。わしは兵器だということを」
そういうと、少女は力をなくし、ぱたりと倒れた。

サカナ大佐はようやく自分がそこに立ち尽くしていたことを思い出した。
少女と対峙して、一歩も動けなかったことを、感じなおした。
ため息を大きく。
そして、足が動くこと、指がようやく動くことを感じ、
生きていることを実感する。

次にこの少女が目覚めるときは、
磁石がなければ暴発の恐れもあるという。
この兵器を国に引き渡すのが仕事ではあるが……。
それでも、国の意志で動くのが、軍人たるものだと、
サカナ大佐は思い直す。

思い直したけれど、
サカナ大佐は心底、生きて帰りたいとも思った。


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