ひっくり返せ
銃声が響く。
瞬間、ウゲツは何かを意識した。
何といわれても説明しづらい何か。
でも、その何かは作用して、
銃口の方向とはまるで別の方向に、銃弾は着弾した。
銃を構えていたオトギは、苦笑いをした。
「やはりな」
「やはり?」
「今の君には銃弾も当たらない」
「わからないですけど、そうでしょう」
ウゲツはなんとなくだがわかる。
重力も無視している力が、
多分銃弾に作用した。
オトギはそれも理解していて、
その上で銃を向けた。
無駄なこととはわかっていても、オトギはそう演じざるを得なかった。
「磁気にだいぶ慣れているな。そういう職業なのか?」
「磁気掃除人です」
ウゲツは答える。
「そうか、それでこの磁気にも暴走せずにいられるのか」
オトギは納得して、銃を下ろす。
「君が来てくれてよかった」
オトギは少しだけ、表情を作る。
悲しいような痛いような、なんとも形容しがたい表情。
「あの町の老頭は、ちゃんと機能しているか?」
オトギは問う。
ウゲツはうなずく。
否定する要素なんてどこにもない。
「君がいるから俺は我を通せる。老頭も意を通そうとできる」
「そう、なんですか」
「そういうものだ。みんな不器用でしょうがない」
オトギはため息をつく。
「さぁ、電鬼を宿しているのだろう。彼女はこの先だ。行け」
ウゲツはうなずく。
そして、オトギのそばを走り抜ける。
オトギは一瞬、ぞっとするような磁気を間近に感じた。
ウゲツは意に介さずに走り抜けて、振り返ることもしない。
オトギは思う。
兵器のネココも確かに恐ろしいものであるかもしれない。
でも、その兵器を止める力を持つ磁石を、
こんなにも操れるウゲツ少年も、また、兵器並の力を秘めているのかもしれない。
あの町は化け物を量産しているのだろうか。
オトギはなんだかおかしくなった。
今なら心から笑えそうな気がした。
国の力にも負けないもの。
理不尽に立ち向かえる力。
それが、ちゃんと存在しているということが、うれしい。
ネココとサカナ大佐のいる部屋の電気錠がはずされた音がする。
ひっくり返してしまえ。
オトギはそう願う。