つかみとる


ウゲツはネココの手を引っ張って走る。
先へ先へ。
ネココより先にたって、道を開かないと。
名前のわからない武器を振り回し、目を見開き、
ほえるようにウゲツは走る。
それでも果ては空、わかっている。
わかっているけれどウゲツは走る。
ここから、戦艦から外へ。
言いなりになどならない、外へ。

……あいつは運命を掴み取るのさ。
サカナ大佐の頭の中で、サクラがつぶやく。

複雑な構造をした、
戦艦ミノカサゴの端っこ。
ウゲツは立ち止まる。
そこはいまだ眠っている闇。
深い深い空が広がっている。
ウゲツは後ろを見る。
追っ手が遠くにいるのを感じる。
そして、一瞬ウゲツが感じたもの。
小さな光。
闇に、光。
ウゲツはその光を信じた。
ウゲツは武器を捨てた。

ウゲツはネココを片手で抱き寄せ、
窓から外へ飛び降りる。
片手を高々と上げ、
あるいは勝利を確信するように。

窓まで追ってきたオトギが、険しい顔をした。
サカナ大佐が少し遅れてやってくる。
「見てろ、運命をつかむ瞬間だ」
サカナ大佐は、にやりと笑う。

ウゲツの高く上げた手に、
光。
自律飛行をしていたオウムガイが、
その舵を預けるかのようにやってくる。
風のような速度で、
さらうかのように。

ウゲツはオウムガイを掴み取る。
反動でウゲツとネココはふわりと宙を舞い、
ウゲツは器用にオウムガイに落ち着く。
ふわふわと落ちていきながら、
ウゲツはオウムガイの舵を取る。
ウゲツの背に、ネココがしがみついている。
高度は高い。
出力を落としたら、地上に激突することは必至。
それでも、出力は確実に落ちている。

闇の中に、オウムガイが落ちていくのを、
戦艦の人間は信じられない思いで見ていた。
……いったろ?
サクラがサカナ大佐の頭の中で得意げに言う。
……あの町の連中はなんだってできるのさ。

「なんだって、か」
サカナ大佐は窓から目を離す。
……サクラを殺すことはできなかったけどな。
サクラの呟きを、サカナ大佐は黙殺した。
サカナ大佐や国の人間でも、この電鬼は殺せそうにないだろう。
あの町の住人でないことをサクラは選んだ。
悪になりたかったのかもしれない。
悪になって滅ぼされたかったのかもしれない。

「日の出を待って戻るぞ」
サカナ大佐は指示を出して部屋に戻った。


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