老頭の彼ら
「やったか」
天狼星の町、ギムレットの明けた大穴。
そこから外を見ていた、クロックがつぶやいた。
小さな光が、ある。
間違いないと、クロックは思う。
あれはウゲツとネココだ。
そして、あれは落ちてきている。
出力を上げねば、間違いなく彼らは地上に激突する。
クロックは決断を迫られる。
この天狼星の町に、上げられる出力があるものか。
何かをかき集めれば、
かき集める何かとはなんだ。
「カミカゼ、違法の電気と磁気を集めたらどうなるかな」
穏やかにカミカゼに語りかけるのは、タケトリだ。
クロックは何かを言おうとする。
けれど、出力を届けるには、それ以外に手段はない。
クロックは黙る。
タケトリは、クロックの方を向き、うなずく。
「なりふり構っていられないんだよ」
タケトリはいつもの穏やかな調子で言う。
クロックは決断する。
「総動員だ!」
クロックは宣言し、
カミカゼは走り出し、老頭の決定を伝えに行く。
大穴のもとにチャイがやってきた。
いつものように、表情は薄い。
「……すまない」
クロックは、チャイにそんな言葉をかける。
「何がすまないんだ?」
「老頭として、相談して決定しないといけないだろう、それを」
「かまわない、今はそんなことをしている余裕はない」
チャイは答える。
「オトギがいても、同じことをしたさ」
チャイはつぶやく。
クロックは空を見る。
戦艦ミノカサゴはまだ空にある。
「戦艦にはオトギがいる。変わっていないようだった」
チャイは少しだけの感情をこめて言う。
タケトリは、その感覚を懐かしいものに感じた。
「さぁ、ぐずぐずしていられない」
クロックは言い出す。
「天狼星の町の、意地と誇りをかけてみましょう」
タケトリはそう言って、微笑む。
「すまないな、結局……」
チャイは、ネココの件で単独で走ったことを、わびようとする。
クロックはチャイの頭をぽこと叩き、
「気にするな。これでおあいこだ」
と、笑って見せる。
チャイもなんだかおかしくなった。
「さぁ、まずは電気を届けるんだ!」
クロックは言って、走り出す。
タケトリも、チャイも走る。
老頭でなかったあの頃のように、
迷路のような天狼星の町を走る。