箱物語(仮)119


冬の初め。
少しばかり寒さが強まる町に出て、
カラットは、安いイヤホンを買ってきた。
待機室に戻って、
電子箱にイヤホンをセット。
インターネットにアクセスして、
カラットは音楽を聴く。
このところ音楽なんて聴いていなかった。
以前はイヤホンで聞いていた気がするけれど、
そのイヤホンもどこか行って、
寒空の中、買い出しに行った。

待機室は空調が効いていて、
コーラを飲んでいても寒くはない。
コーラを手元に、
ツヅキに教わった音楽をかける。
ツヅキはヘッドホンからある程度金をかけているらしく、
音楽は詳しい。
音楽にうるさいわけでなく、
あくまで、詳しい。
ツヅキは否定をしない。
外見は冷たそうに見えるけれど、
音楽に関しては、否定するのを聞いたことがない。
ツヅキのそんな音楽の話を聞いていて、
カラットは音楽聞いてみようかなと思った。

なるほど、
ツヅキがすすめる音楽は、
耳の心地がいい。
優しいだけでなく、心がある。
ついでに言うなら芯がある。
なるほどなぁと思い、コーラを一口。
これをいい環境で聴きたくなるのも、
ちょっとわかる気がした。

ルカは、余計な記録を持つなという。
過去の箱の危険性はカラットもよくわかっている。
でも。
生きるってことは、
無駄の積み重ねでもあり、
ツヅキの音楽や、
ヤンの文庫本、
そして、たぶんカラットのコーラ。
ルカも表に出していないだけで、
何か無駄があって、
それで生きているとカラットは思った。
それを否定はしない。
多分、だけど、
箱は空っぽじゃ意味がないんだと思う。
箱の中に何かがあって、
それではじめて箱の意味があるんだと思う。

カラットの聴いていた音楽がひと段落。
ため息を一つ。
寒空の下、家電屋で買ったイヤホン。
値段以上の仕事をしてくれてるなと思った。
暖まるのは空調だけでなく。
満たされるのはコーラでお腹を満たすだけでなく。

カラットは次の音楽を選ぶ間、
ツヅキに何を勧めようか考える。
甘いココアの好きなツヅキだ。
カラットおすすめのお菓子なんていいかもしれない。
また、寒空に出て買ってこよう。
それだけの価値はある。


続くかもしれません


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