ノズナの町


車は砂の多い道を走る。
周りに樹木は少ない。
葉が茂っているのも少ない。
遠くに岩が見える。
山のような岩なのか、岩のような山なのか。
緑色が少ない風景だ。
加えて、日が沈みかけている。
マーヤの町を出てから、ずいぶん時間が経過しているのか、
転送で結構時間を使うのか、
それはネジには、よくわからなかった。

「次の町はなんていうの?」
「ノズナの町だ」
サイカが地図を見ながら答える。
道どおりなのかを確認してくれているのかもしれない。
特に指示がないということは、あっているのだろう。
「何か有名なものはあるかな」
「さぁな」
「おいしいお酒があればいいけどな」
「ほどほどにしておけ」
「…善処します」
ネジは答える。
以前の地酒で自分が酒に弱いことを思い知った。
今度はもっと弱いのをちびちび飲もう。
ネジはそんなことを考えた。

風が強く吹いたらしい。
砂埃が舞う。
一瞬だけ視界が途切れる。
道をはずしたら大変と、ネジはブレーキをかける。
ざりざりと砂の音をかすかに聞きつつ、車は止まった。
砂が舞う。
ネジはワイパーだけを少し動かして、
砂をさっと払う。
また視界がよくなったところで、車を走らせる。
「砂埃がいっぱいだと参るなぁ…」
「少し急いだほうがいいかもしれない」
サイカが外を見ている。
「うん?」
「夜になると厄介だ」
「わかった、できるだけ飛ばす」
ネジは軽くうなずき、アクセルを踏む。
慎重に、かつ、大胆に。
車は道の上を走る。

やがて、町が見えてきた。
明かりがともり始めている。
バックミラーをチラッと見ると、
真っ赤な太陽がとけていくように砂漠の中へ沈んでいった。
夜を前にとりあえず到着できそうだ。
ネジは安堵して、ため息をついた。

ノズナの町は、境界もなく、
柵らしいものもない。
気がついたら石造りの家がある。
石を積み上げて漆喰らしいもので固めたような、
高さのあまりない家が並んでいる。
例のごとく、青白い歯車が見える。
土地は有り余っているのだろうか。
布をかぶった人が、ぽつぽつ歩いている。
砂があるから、かぶっているのかもしれない。
看板が出ているのを見ながら、
ネジはゆっくり車を走らせる。
一応車用の砂よけつきの場所を見つけた。
そこに車をとめると、宿を探しにかかる。
歩くと、冷えかかった空気が通り過ぎていく。
「冷えるの早いな」
「砂は冷えるのが早いと聞く」
「なるほど」
ネジはうなずく。
サイカは何でも知っている。
でももしかして、ネジが何もしらなすぎるだけかもしれない。

高さの少ないノズナの町において、
ちょっと大きな建物を見つけた。
看板を見れば、宿だ。
いつものようにツインで一部屋取る。
部屋は空いていたらしい。
旅人が少ないのか、運がいいのかはわからない。
「シャワーも使えますので、旅の疲れを癒してください」
フロントの女性がそういうと、
「砂漠なのに?」
と、ネジは思わず言った。
女性は微笑んだ。
「昔は使えませんでした。でも」
「でも?」
「喜びの歯車が来てから、シャワーも制限なしで使えるようになったのです」
「そりゃすごいや」
「ですので、存分に砂を流してください」
「はい」
女性の微笑みに見送られ、二人は部屋に向かった。

制限なしのシャワーを浴びて、
ネジは頭をサイカに拭いてもらう。
拭いてもらいながらネジは考える。
その昔は、車で移動なんてなかっただろうな。
歩いてか、砂埃の中を何かで走るか。
そしたら、砂埃をまともに食らうだろうな。
砂埃食らってもシャワーがないなんて、
今では考えられないな。
「終わったぞ」
「うん、ありがと」
ネジは赤い前髪を整える。
この顔にかかった前髪が砂まみれだったら、
さぞかし厄介に違いない。

喜びの歯車は、いろんな生活を変えている。
なんだかすごいなとネジは思った。


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