トビラ
ネジとサイカは朝飯を食べに行く。
号外で騒がしいかなと思っていたら、
そうでもないようだ。
適当な食堂に落ち着き、
適当なものを注文して、
うまい朝飯をほおばる。
新鮮な魚が、とにかくうまい。
食事を終えて、
サイカはコーヒー片手に新聞を読んでいる。
「昨日のこと載ってる?」
「大きくは載ってないな」
「なんで?」
ネジは疑問に思う。
あの大騒ぎが何で載らないのだ。
「おそらく、中央がもみ消そうと必死なんだな」
「中央が?」
「新聞師が情報を一度中央に回している」
「ああ、それで、中央が新聞を配信するんだっけ」
「そうだ、だから中央が簡単にもみ消せる」
「むむー」
ネジはうなる。
新聞も信じすぎるわけにはいかないのか。
「公爵夫人の失態だったら、大きく載っているな」
「ああ、あの声の人」
「怒りの歯車なるものを使っていると、大嘘をついた」
「え?」
「新聞にはそうある」
「嘘なの?」
「ハリーが撒いた紙には嘘だとあったわけだ」
「でも、嘘ついてるように感じなかったけど」
サイカは新聞をたたむ。
「公爵夫人は信じていたんだろう。特別な大型翼機であると」
「じゃあ、公爵夫人はだまされて、嘘つき?」
「中央ならその位するだろう」
「ひどいなぁ」
ネジはぼんやり考える。
なんかひどいなと。
中央は一体何をしているのか、
ネジにはトンと見当もつかない。
サイカがコーヒーをすする。
そして、思い出したように話し出す。
「トビラという名前を覚えているか?」
「トビラ?」
ネジは覚えがない。
「俺、記憶なくしているんだよ?」
ネジは再度確認をする。
「わかっている、もしかしたらと思っただけだ」
ネジは考え込む。
トビラ、トビラ、なんだろう。
「まったく覚えがないよ」
ネジはばんざいをして、わからないことを示す。
「少し気になっただけだ」
「新聞に何かあった?」
「喜びの歯車の中枢に、誰かが侵入したような痕跡があるらしい」
「どこにあるの、それ」
「中央のどこからしいが、詳しくは隠されている」
「ふーん、それで?」
「それを発表したのが、シロウサギのトビラだ」
「シロウサギのトビラ」
「歯車システムを実質上作り出した人物だ」
「ウサギクラス?」
「ああ、ウサギだ」
「どのくらい偉い?」
「そうだな、世界を回しているといっても過言ではない」
「すごいんだ」
「ああ」
サイカは冷えたコーヒーをすする。
空っぽになったらしい。
ネジは考える。
トビラという人。
「トビラはトランプより偉い?」
「何段階も上にいる」
「そうなんだ」
サイカは席を立つ。
「いくぞ」
「うん」
ネジも席を立ち、会計をした。
町には昨日の余韻が残っている。
結果としては、ハリーの大勝利だ。
「これから修理工場に顔を見せるか」
「うん」
「あと一日かかるようなら、隣の島にでも行ってみるか」
「いいね」
会話しながら二人は歩く。
大騒ぎの名残がそこかしこに残っていて、
まだ眠い町のようだとネジは思った。
修理工場では、
女性が車に取り掛かっていた。
「あ、来たの?」
女性はネジとサイカを見ると、困ったように笑った。
「あと一日かかりそう」
「そうか」
サイカが答える。
「急ぎではない、でも、しっかり調整してくれるとありがたい」
「うん、それは任せておいて」
女性は胸をぽんとたたいた。
「それから、予備の燃料はあるだろうか」
「あるよ、必要かい?」
「車が出来上がったら、積んでくれるとありがたい」
「了解」
空を小型翼機が飛んでいく。
青い青い抜けた空。
雲ひとつない。
朝の出来立ての太陽の光の中を、
翼機がいくつか飛んでいる。
動力はやっぱり喜びの歯車なんだろうか。
喜びの歯車がゆがんだら、
シロウサギのトビラに怒られる。
ネジは空を見上げて、そんなことを考えた。