空に近い場所


白い町をネジとサイカは歩く。
港から歩くと、上り坂の多い、入り組んだ町だ。
見上げれば建物の間に青い空。
紐を渡して洗濯物がかかっている。
そのさらに上を、翼機が飛んでいる。
町は少し騒がしい。
グリフォンが見つかったのが、主な理由だろう。
怒りの歯車でないグリフォン。
ハリーは必要なしと多分置いていった。
興味がないわけではないが、
行ったところで、人ごみなのだろう。

「どけ!」
「邪魔するな!」
声が近づいてくるので、
ネジはなんとなく道をあけた。
後ろからやってきたのは、トランプらしい何人かだった。
トランプの格好をしているので、多分間違いない。
一般人らしい人が、先に立って案内しているようだ。
この一般人にも、役職があるのかもしれないけれど、
見た限りはただの一般人に見える。
「こちらです、島影にグリフォンが」
「さっさと案内しろ」
「はい、こちらです」
トランプたちの一団は、
ネジとサイカに目をくれることもなく去っていった。
「まだマーヤの町のことが伝わってないのかな」
マーヤの町でトランプをやっつけている。
トランプはネジとサイカを追うはず。
ネジはそう思うのだが、
どうもトランプの情報伝達は、
グラスを越えると遅くなるのかもしれない。
まぁ、向かってきたら、やっつければいいさと、
ネジは気楽に考えた。
気楽に考える裏で、
ネジは武器のことを考える。
フラミンゴも、ハリネズミも、
元は罪人だったものだ。
命を道具にしている。
ネジはトランプにいい印象はない。
けれど、トランプという役人や、
中央の支配によって、
人々は喜びを受け取っている。
喜びの歯車が回っている。
世界はそれで動いている。
「いいのかなぁ…」
ネジはつぶやく。
「何がだ?」
「このままの世界でいいのかなって」
「トリカゴの影響か?」
「わかんないけど、何かが足りない気がするんだ」
ネジは説明できない。
夢で垣間見た景色のように、
何かがゆがんで欠けている気がする。
あの声は誰だったんだろう。
もう、内容もおぼろげなのに、
声があったことは思い出せる。
誰だったんだろう。
「見ろ」
サイカの言葉でネジは我に帰る。
「あれに乗れば島の上に出るらしい」
サイカが示した先には、
小さな登山用の車があった。
島の上に向かって線が張られていて、
その線にぶら下がるようにして上るようだ。
「島影はうるさいから、上に行ってみようか」
「わかった」
二人は車の駅へと歩き出した。

二人分のチケットを買って、
車に乗って島の上へ。
どうも不安定な乗り物ではあるが、
ゆっくり確実に島の上へと移動する。
ネジは窓の外を見る。
青い空、青い海、旋回している翼機、下を見れば小さな白い町。
山のほうを見れば、
下よりも翼機が大きく見える。
だいぶ高いところまで来たなと思ったところで、
車は駅らしいところへと到着した。

簡素な駅を出ると、
そこは広い台地だった。
小さな翼機がそこかしこで、
着地したり、また飛び立ったりしている。
ネジは翼機の邪魔にならないところを見つけて、
景色を楽しんだ。
町よりも風が強く吹いていて、
翼機はその風も味方につけて飛んでいる。
下には小さな白い塊。町だろう。
上を見れば雲が早い。
なんだか別の世界に来たような気分にもなるし、
なんとなく、心が広くなる気がする。
この風を受ければ空が飛べるだろうか。
ネジは赤い長い前髪をそのままに、
風を受ける。
ひたすらきれいな空間だと思った。

「見えたか?」
「見えた、でかいな」
翼機の近くで誰かが話している。
「さすがグリフォンだよな」
「トランプも来ているらしい」
「もうひとっ飛び見てくる」
「あんまり高度を下げるなよ」
どうやらグリフォンを空から見る野次馬らしい。
こんなところにもいるんだなとネジは思った。
「どうする?」
サイカがたずねてくる。
「グリフォンはどうでもいいから、思う存分風を受けたい」
「そうか」
サイカはネジのそばにたたずみ、
ネジは黙って風を受けた。
それはとても気持ちよい沈黙だった。


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