システム


眠ったネジは夢を見る。
いつものように彼女の夢を。

ネジは大きな青白い歯車を見る。
これを見たということも、
起きたら忘れるのかなと思う。
少しだけゆがんでいる。
歯車がいくつも欠けているから。
ネジはそんなことを思う。
ネジはいつものように彼女を探す。
誰だかはわからないけれど、彼女。
青白い歯車の上に、
ステップを踏んでいる彼女がいる。
ネジは手を差し伸べる。
一緒にいきたいと思った。
(やめろ!)
誰かの声がする。
誰だろう。
(今、彼女を失うわけにはいかない!)
(彼女は世界のぜんまいなのだ!)
(なぜお前はアクセスできるんだ)
(研究班、システム再起動の準備を!)
ネジはわけがわからない。
いつもよりはっきりと誰かの声が聞こえるのに、
これは一体何事だろう。

ネジは落っこちるような気がした。

びくりとして、ネジは目を覚ます。
覚えていないことがたくさんだ。
たくさん声を聞いたのに、
何一つわからない。
そして、夢の記憶も薄れていってしまうのかもしれない。
ネジの記憶の中で、
関連付けされているニィと、夢の彼女。
ネジは思う。
夢の彼女と旅に出れば、ニィも救われるような気がした。
ネジの中では記憶に残すために同一だ。
知りすぎて涙になった人。
公爵夫人も。
トリカゴも知りすぎたんだろうか。

ネジは身を起こす。
外は夜だ。
おなかも少しすいた。
とりあえずネジは引き続き寝ることにした。
うたたねの延長から、
ちゃんとした睡眠へ。
聖職者の衣装をハンガーにかけて、
ラプターもおろす。
シャワーは面倒だからいいやとする。
明日はどこか別のグラスに行くんだろうか。
ネジがシャツの姿になっていると、
ドアをノックする音。
「はいはい」
ネジは覗き穴を覗く。
サイカだ。
ドアを開けると、いつもの無表情のサイカがいた。
「晩飯はいいのか?」
「眠いから寝ようかと思ってた」
「パンを買ってきた。少し食べておけ」
サイカが丸パンを差し出す。
「ありがと」
ネジは礼を言う。
「少し話がある」
「立ち話もなんだし、入って」
サイカが入ってきて、ドアを閉める。
ネジはサイカに席をすすめて、自分はベッドに腰掛ける。
「明日のことだが」
「うん」
「グラスシオンに行こうと思っている」
「どういうところなの?」
「大戦のきっかけになったところだ」
「どんな風な?」
「グラスシオンは、鉱石が取れる」
「ふむふむ」
「その鉱石を中央は欲した」
「ふむふむ」
「権利を売れといってきて、拒んだ。それで大戦だ」
「それでみんな戦ったの?」
ネジにはわかりにくいことだ。
鉱石のことだけで、みんな死んだり戦ったりしたのだろうか。
「みんな戦った。死んだものもいる。殺したからと罪人にされたものもいる」
「鉱石で?」
「その鉱石で歯車が作られている」
「ああ…」
思うに、中央はシステムを完成させるために鉱石がほしかったのかもしれない。
歯車は、人の命よりも重いものとしているのかもしれない。
トビラ。
歯車システムを完成させたというウサギ。
「しすてむさいきどう?」
ネジの脳裏にさっき聞いたようなことが思い浮かぶ。
「どこで聞いた?」
「わかんない、なんか思い出した」
「ふむ」
サイカはうなずく。
「歯車のシステムが少しおかしくなったときは、再起動をかけると聞いたことがある」
「そうなのかな。よくわかんないんだ」
「夢でも見ていたのか?」
「かもしれない」
ネジは丸パンにかぶりついた。
外側が硬くて、内側がふわふわしていて、素朴なパンだ。
ニィにも食べさせたいなと、ふと、思った。
まぜこぜの記憶の中、ニィが青白い歯車の上でステップを踏んでいる。
楽しいだろうか。
青白い歯車は、喜びの歯車だから。
命を犠牲にした歯車を回していて、
彼女はそれでいいのだろうか。
ネジは無性に苦しい感情を持った。


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