あなたの涙がぬぐえない 1
青年がいる。
仮の名前をグリフォン、長いからグリとする。
グリは普通の青年だ。
年齢云々は省かせていただく。
とりあえず普通なのだ。
この春。
グリは引越しをした。
古い物件だけど、なんとなく気に入って即決した。
何しろ安く、居心地がいい。
哀れむような大家の目は、あまり気にしない。
家具を運んで、とりあえずの新生活。
一日目の夜。
とりあえず引っ張り出した布団でうとうとしていると、
蛍光灯が、ちかちかして、薄く暗くなった気がする。
身体が動かない、金縛りか。
住人が起こしているのとは明らかに違う、音。
もしや、ラップ音?
グリは、うとうとの頭を働かせて考える。
もしかして、家賃が安いのは、そういうこと、なのか?
これから毎日、金縛りにあって、休めなくて、
ぐったりしながら仕事に行く羽目になるのか。
もしかしたら、気持ち悪いものが、
わらわらとこれから出てくるのかもしれない。
どうしよう俺。
やがて、女の泣き声が聞こえてくる。
確かにこれはホラーのお約束である。
しかし、この女の泣き声、たまに鼻をすすったり、しゃくりあげたり、
本気で泣いているのだろう、しかし、怖がらせる気は薄いようだ。
「ぐひっ、えぐ、えっえっ」
グリは、泣き声を聞きながら、
あー、マジ泣きだなぁと、うっすら考える。
この反響するような泣き声は、幽霊なんだろうし、
どうしたものかなぁと考える。
頭をぼりぼりかいて気がつく。
金縛り、さっきので終わってる?
ってか、つけっぱなしだった蛍光灯も戻ってる?
で、幽霊の女が泣いて…いるねぇ、まだ。
起き上がってはじめて、グリは幽霊の女を見る。
泣いて相当ひどい顔にはなっているが、
陰気そうに見えないこともないが、
かわいいと思った。思ってしまった。
「きみ、さぁ…」
グリはなんとなく声をかける。
「やっぱり幽霊?」
幽霊の女は、動けるグリに気がつき、驚き、鼻をすすって、うなずく。
「もしかして、半端な幽霊?」
グリが尋ねると、幽霊の女は声を上げて泣いた。
「半端な男に半端って言われたー!」
幽霊の女の名前はモモコと言うらしい。
しゃくりあげる合間に、どうにか教えてくれた。
とりあえず、気持ち悪い変なものが出てこない限り、
グリはこの部屋で生活しようと決めた。
家賃と幽霊を天秤にかけると、そうなってしまうグリである。