あなたの涙がぬぐえない 2
幽霊のモモコは、
男にふられたから自殺をした女の幽霊だ。
これをちゃんと聞き出すのに、一週間ほどかかった。
泣いてばかりいるモモコさん。
犬のおまわりさんでなくても困るね。
自殺と言うと、幽霊物語ではありがちだなぁとグリは思う。
けれど、いざ目の当たりにすると、
どう、言葉をかけたものなんだろうなと、
グリは彼なりに悩んだ。
例えばであるが、幽霊物語の男は、どういう言葉を返したんだろう。
あまり物語なんて意識したことないし、
幽霊と話をするのも、なれていないから、
困ったものだとグリは思う。
「モモコさんさぁ」
今週そうだったように、
グリは真夜中の部屋で、
相変わらず泣いているモモコに話しかける。
「ふられた原因ってなんだったわけ?」
モモコはしばらくえぐえぐとしゃくりあげていたが、
「顔、泣くと、笑うと、ひどいって、言われて」
珍しく、モモコの泣きながらの返答がスムーズにいった。
いつもは、もっと嗚咽というか、言葉が出てこなくて待つのだけど。
今日はちゃんと話せたなぁとグリは思う。
「そりゃ、マジ泣きマジ笑いしたら、変な顔になるの普通でしょうよ」
グリは、言いながら缶ビールのプルを開ける。
グリに他意はない。
ただ、思ったことをいつものように言っただけだ。
ビールを喉に流し込み、息をついて、
ふと、モモコの泣き声がないことに気がつく。
「あれ、モモコさん?」
グリはモモコを見る。
モモコはぽかんとしている。
長いこと泣いていた顔が、ふっと、何かを忘れたように。
目を腫らしているし、涙あとはくっきりだけど。
モモコは、泣き止んだ。
「普通、なの? おかしな顔って」
「ああ、うん、そうだと俺は思うな」
グリは、ビールをまた口にする。
缶ビールはあっさり空になる。
「あたし、普通のことを指摘されて、死んだんだ…」
「んー。そりゃ違うでしょ。女の子の顔をひどいと言った奴がよくないって」
グリは次の缶ビールを探す。
蛍光灯は暗くならないし、
金縛りもない。
それなりに立地のいい、幽霊と暮らす部屋。
「グリ、これ、ビール」
「ありがと、モモコさん」
グリは疑いなくビールを受取ってプルを開ける。
噴出すビール!
やられたとは思ったけれど、
モモコはげらげら笑っている。
ひどい顔?いや、いい顔して笑っている。