愛の色


奇跡って何度も起きるものだなぁと、
消し止められる火事を見ながら俺は思った。

俺たちは、空を飛んで火事から脱出した。
それで、町の人が集めていた布団の上に落っこちて。
何で布団と思ったけれど、
3階の子供とシロネコさんの、万が一のために集めていたらしい。
火事の原因とか、シロネコさんがなんでとかは、俺はわからない。
ただ、心臓がばくばくいってる。
鼓動で何も聞こえない。

助けた子供は無事に親と会えたらしい。
涙顔でなんか、話している。
子供と親は、集めた布団の端っこに腰掛けている俺に、
お辞儀とお礼を何度もして、
人の集まりにもみくちゃにされて見えなくなった。

「トビウオ」
すぐ近くで、声。
澄んだ声のこの人を、俺は知っている。
「はい」
澄んだ声のシロネコさんは、俺の背に、彼女の背中を預けて。
「本当に飛べましたね」
「俺は、言ったことは守ります」
「すばらしいです」
シロネコさんは、手放しで褒める。
「まるでヒーローです」
「いや、ヒーローじゃないです」
俺は、軽く否定、そして続ける。
「男は、飛ばなくちゃいけないときが、あるんですよ」
俺は、自分自身に言い聞かせるように。
「道化だって、飛ばなくちゃいけないときはあります」
「でも、トビウオ、あなたは私にとってはヒーローです」
「俺は…」
「あなたは、誰よりも素敵な、ヒーローです」
俺は背中にいるシロネコさんに、顔が向けられない。
言葉も出てこない。
顔が赤いだろうか。心臓がバクバクする。
「みんなの中から、私を見つけてくれた、いちばん最初の時」
「…覚えてます」
勢いで、だいぶおかしなことを言った時のことだ。
「たくさんの人の中から、私を見つけてくれるなんて、奇跡かなと思いました」
俺は黙るしかない。
「それからずっと、トビウオを見ていました。風船をとったあの時も」
俺は、もしかしたら。
思い出のウミネコに勝てたのだろうか。
いや、勝ち負けじゃない。
これで、いいんだ。

「シロネコさん」
「なにか?」
「はじめてシロネコさんを見たとき、天使かなって思ったんです」
顔が見えないのをいいことに、俺は言ってのける。
「トビウオ」
「なんでしょう?」
「天使は空を飛ぶものと、相場が決まっています」

俺たちは、なんだかおかしくなって笑った。


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