鳴かない小鳥と、ただの気の迷い 1


この話は架空の話である。
本当にあったらとても困る話である。

架空の世界のどこかに、ぽんこつ城と言うお城があった。
城主はヨーマと名乗る貴族の少年で、
気まぐれで、多少無愛想。
ただ、面白いと思うことには貪欲な少年だった。

ある夜のこと。
城に来訪者があった。
日ごろから、見世物をヨーマに見せて、
あわよくば売りつけると言う商人が来ることもあり、
夜の来訪者はさほど珍しいことでもなかった。
そんな中、この来訪者は、
ヨーマに会って言うのだった。
「国を滅ぼした鳥は要りませんか?」
ヨーマは黙っている。
来訪者は続ける。

歌で人を殺す鳥の末裔です。
ただ、遺伝子に難がありましてね。
一言しゃべれば、喉が裂けて死ぬでしょう。
その一言で、鳥の意思次第では、
誰かを殺すことも可能ではあります。
いいえ、御代はいただきませんよ。
さっきも申しましたとおり、
遺伝子に難がある小鳥です。
ええ、小鳥です。
生まれながらにして、使い物にならない小鳥です。
歌えませんし、忌み嫌われる小鳥です。

ヨーマは微笑んだ。
面白いと思ったのだ。
「いくらほしい?」
「いえ、御代はいただきません」
来訪者は言う。
「この夜の間に、お部屋に小鳥を向かわせましょう」
「それは僕を殺すのかな?」
「いいえ、しっかり主人が誰であるかを教えておきますゆえ」
「そうか、面白い小鳥であることを望んでるよ」

来訪者が去って真夜中。
ヨーマの部屋の窓に、微かにノックをするような物音。
月明かりがやけに明るい。
その明かりが差し込む窓を、ヨーマは開ける。
そこには、少女がいた。
じっとヨーマを見ている。
その背には、黒い翼。
ヨーマはヨーマなりに理解する。
人外であり、動物でもない、当然ただの小鳥でない。
なるほど、これなら面白い。

「僕はヨーマ。君の主人だ」
ヨーマは窓に向かって片手を差し伸べる。
小鳥と呼ばれた少女は、その手をとって部屋に招かれた。
鳴かない小鳥。
喉に災厄を抱えた小鳥。
面白そうな玩具は、じっとヨーマを見ていた。


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