鳴かない小鳥と、ただの気の迷い 2
月夜に来た小鳥は、
ヨーマによってルナと名づけられた。
たいした意味はない、
小鳥と呼ぶよりはいいだろうと、
その程度のことだ。
ルナを育てた境遇がどんなものか、
そんなものにヨーマは興味はない。
ただ、ルナはいつも無表情に近く、
当然、言葉もしゃべることはなく。
時折、不意に物音があると、
黒い翼を震わせ、過剰におびえる。
かと思えば、
ヨーマの作ったおもちゃを飽かず眺めていたり、
ヨーマが近くにいれば、
その姿をじっと見ている。
「ルナ」
ヨーマがルナを呼ぶ。
ルナは当然声では答えない。
ヨーマはかまわず続ける。
「君は主人が誰だかわかっているようで、なによりだ」
ルナはうなずく。
「僕の邪魔になるまいと、何もしないのだね」
再び、ルナはうなずく。
ヨーマは、ルナに近づく。
ルナの目が泳ぐ。動揺している。
ヨーマは、にっこり笑って、
「いいこだ」
言って、ルナの頭をなでる。
じつは、ルナからすればたまったものじゃない。
ルナにとっては、主人は絶対であって、
イコールで神様と同じくらいなのだ。
そのルナのパニックを、ヨーマはよく理解している。
この小鳥は、認められること、褒められること、
そういったことに、とても慣れていない。
だから、少しそれをくすぐれば面白い。
そんなヨーマの遊びだ。
それは本当に遊びなのだろうか。
ヨーマはその疑問に無理やりふたをする。
何の疑問も抱かずにヨーマだけを見つめる存在。
ヨーマの全てを肯定し、
哀れなくらいに従う、この存在。
欲しがっていたのは、そういうものなのか。
ヨーマは、再度、その疑問にふたをする。
「ルナ」
ヨーマは、何かを隠したような極上の笑みを浮かべる。
「怒らないから、ルナのしたいことをしてごらん?」
ルナは、手を少し上げようとして、また、下げて、
「ルナ、大丈夫」
誘うようにささやけば、
ルナは震える手でヨーマを抱きしめた。
たぶん、言葉があればごめんなさいを繰り返していて、
たぶん、肩口で、ルナはひどい背徳感と罪悪感で泣いているのだろう。
顔は見ないことにしておく。
この愛玩動物は、哀れでとても愛らしい。
はたして、それだけか。