強くふられたコーラは世界を救わない 1
くそ寒い駅前の時計台の下、
俺は待ち合わせをしていた。
相手とは初対面というかなんというか。
何度か会っている、会話もしている。
それはオンラインゲームの中で。
大体まとめると、俺はオフ会の待ち合わせをしていた。
時間帯としては夕方。
集まって飲みにでも行くかという話だ。
駅前の電飾はそれはそれはやかましく、
この電気代を使えば、
俺のPCのスペックをどれだけあげられるだろうか考える。
ゲーム内ではいつもこの時期何をしていたっけ。
一応寒そうなところに、適当に行って、
チャットをした程度か。
その時一緒だったシーフのリン
(ゲーム内の職業と名前、本名は知らない)が、
「クリスマスのリア充爆発しろー!」
と、山に向かってシャウトしていた。
叫んでいるなぁと思う程度で、
ゲームの外の世界が充実していようがなんだろうが、
結局、本当に充実しているなんて人間、少ないんじゃないだろうか。
俺は時計を見上げる。
ポケットからのど飴を取り出し、包み紙をむいて、
のど飴を口の中に、ぽいと。
時刻はそろそろのはずだが、
さて。
互いに顔も合わせたことのないオフ会。
何か目印でもあったほうがいいのだろうか。
でもなぁ。
ゲーム内で俺は英雄(ヒーローと読ませる)の、
名前はディーというキャラクターで、
なんというか、そうだな。
とても漫画やゲームのヒーローのような奴だ。
ディーはみんなのピンチにやってくる、最強のヒーロー。
最強のヒーローが、例えば、
「はじめまして、いや、いつもお会いしていましたね」
なんて変な挨拶をするのだろうか。
イメージじゃないなぁ。
俺は、のど飴をがりりとかじる。
再び時計を見上げる。
ポケットからのど飴を取り出そうとして、
俺はちょっと都合が悪くなったとか、いまさら言おうか考える。
今なら、と、古い携帯を取り出そうとして、
腕がむんずとつかまれた。
「というわけで、あたしこの人と帰るから」
腕をつかんだのは女の子で、
長い黒髪をツインテールにしている、まではわかった。
この人と帰る?え?
「マリちゃん、それないよ、俺、マリちゃんに会いに」
すがるように男が近づいてきて、
なんか、さえない男だなぁと思っていたら、
マリちゃんという彼女は、
大きめのトートからコーラのペットボトルを取り出し、
強くふって、男に向かって開栓。
ぶしゃあ!
「いこ!」
マリちゃんは、手慣れたコーラ砲で男を撃退して、
俺を引っ張ってどこかに向かう。
あとで幹事にあやまったほうがいいかな。
考える俺をよそに、マリちゃんはずんずん進む。
12月の電飾はやかましく。
現実の俺は、英雄なんかじゃなかった。