強くふられたコーラは世界を救わない 2


マリちゃんという女の子は、
俺の腕をつかんだまま、
電飾の騒がしい駅前通りを歩く。
ディーならどうするかなぁと、
歩きながら俺は思う。
ネットゲーム内のディーなら、
華麗に何らかの反応をするのかもしれない。
が、ディーを操作している当の俺が、
この状況で何をしていいかわからない。
俺はディーじゃないのかな。
いや、ディーだけどなんか違うなぁと。

マリちゃんは、不意に立ち止まる。
「考えてたんだけど」
言いながらマリちゃんが俺の方を向く。
しばらく俺をじっと見たあと、
「あなた、誰かと待ち合わせしてた?」
マリちゃんはずんずん歩きながら、そういうことを考えていたらしい。
「いや、今からメールでキャンセル入れる。気が進まなかったし」
「そうなの?」
「うん」
「じゃあ、まってる」
俺はポケットから、のど飴を取り出し、
放り込んで、がりりとかじった後、
古い携帯でメールを打つ。
とりあえず、オフ会はいけなくなったと、幹事に。
その隣で、マリちゃんも何やらメールを打っている。
機種はわからない。

あれ、なんでマリちゃんが待っているんだ?

送信して、ふぅとため息。
「コンビニ行こう。コーラほしい」
マリちゃんは端末(携帯なのやらスマホなのやら、俺にはわからない)をしまって、
トートを肩にかけなおす。
ツインテールが邪魔じゃないのかと思うが、
女の子という生き物は、邪魔をおしゃれというものに変える。
そして、このマリちゃんは、よっぽどコーラが好きらしい。

「あ」
「うん?」
「お兄さん、名前なんて言うの?」
「ダイキ」
「あたしは、マリ」
「うん、さっき聞いた」
「あ、そっか」
コーラ砲の一件を、マリちゃんは思い出したのだろう。
俺とマリちゃんは何となくコンビニまで歩く。
早くなく遅くなく。
「今日オフ会のはずだったんだ」
マリちゃんは、そんなことを言い出した。
「ダイキさんにはわかんないと思うけど、ネットで知り合った人が会うの。オフ会」
「うん、わかる」
「それでね、ネットゲームの人たちと会うことになってたの」
「へぇ」
「そしたら」
マリちゃんが言いかけたところで、俺の携帯にメール着信。
メールの内容はこうだ。

オフ会にディーを名乗ってやってきたやつが5人ほどいる。
これは、本物が出てこないと収まらない。
みんな俺が本物と言いあっている。
みんなとんちんかんで、見ている分には楽しい。
ただ、気になることがひとつ。
みんな、メシアのマリアに会いに来たんだって騒いでる。
わかってるだろ?メシアは神の子っていう設定で、
神の力を借りて、奇跡をネットゲームで起こせる。
管理人の別アカウントさ。
マリアも来ないってさっきメールがあって、

俺はここまで読んで、マリちゃんを見る。
「えーっと」
マリちゃんは考えるようなそぶりをして、
「あの、マリアです」
「ディーです。一応本物の」

お互い、コンビニの前で間抜けな挨拶をした。


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