強くふられたコーラは世界を救わない 3


コンビニでいろいろ物を見て、
新作ののど飴が出ていないことに軽くがっかりする。
季節限定とか、変わったフルーツのとか、
なんか出てほしかったんだが、しょうがない。
一方のマリちゃんは、
コーラを3本レジに持って行っている。
よほどコーラが好きなのか、
もしかしたら、もしもの時のコーラ砲のストックかもしれない。
とりあえず、俺はのど飴のストックが切れたら、いらいらするので、
柑橘類のを買うことにした。

マリちゃんは先にコンビニの外で、
さっそく一本目のコーラを飲んでいた。
ツインテールで普通っぽい女の子。
ただ、ネットゲームの管理人だ。
性別が云々じゃないけど、
なんだろう、この子がなぁと思う。

「ディーは何で、オフ会断ったの?」
マリちゃんが尋ねてきた。
「なんか、英雄が普通の人になるの、なんか、イメージじゃなくて」
「ふぅん」
「うまくいえない、ごめん」
「んーん、なんとなくわかる」
マリちゃんは微笑んだ。
「マリアって存在だけで幻想持って来た男がいたのよね」
それは、さっきの男だろうか。
「メシアのマリアは、特別でもなんでもないのに」
「普通ってこと?」
「うん、マリアは最低限の管理しかしないよ」
マリちゃんは上を見上げる。
やかましい電飾と、コンビニの看板。
あるであろう、星なんて見えない。
俺も上を見上げる。
今、流れ星があっても見えないな。

「願いがかなうとしたら、ディーはマリアに何を望む?」
「なんにも」
「なんにも?」
「俺ごときに管理人の権限は使わないでほしいなというのと、あと」
「あと?」
「世界が消えないでほしいなとは思う。可能な限りでいいからさ」
「それってどの世界?」
マリちゃんは尋ねる。
俺は答える。
「えーっと、君と俺がいる世界。話せる世界」
そういえばネットゲームの世界に名前はついていただろうか。
マリちゃんがふっと笑った。
「いいよ、がんばって維持するよ」
「ほんと、無理しなくていいから」
「この世界もあの世界も、消さないから安心してね」
「うん」

この世界あの世界?
はて?

隣でマリちゃんはおいしそうにコーラを飲んでいる。
俺はのど飴を口の中に放り込んで、かじる。
疑問も一緒に砕いて、そこにはおいしい平和しかない。
コーラは武器じゃない。
俺は英雄じゃない。
マリちゃんはこの瞬間、普通のコーラ好きの女の子だ。
管理人でもなんでもない。

マリちゃんと俺は他愛もない雑談をコンビニの前でする。
世界が終る暦がどうとか。
オフ会が混乱だろうなとか。
おいしいハンバーグのお店とか。
コーラ砲のうまい撃ち方とか。
のど飴の新作何かないかなとか。
飴をかじる癖があるとか。

その日は適当な時間で切り上げて、
マリちゃんと手を振ってオフは終了。
何事もなく楽しく平和だった。

帰ってから俺は仮眠をとった。
どうしても眠いわけじゃないけれど、
ただ、ネットゲームのピークの深夜までと思って、眠った。

夢を見た。
マリちゃんはたくさんの世界を管理していた。
この世界、あの世界。
ディーがいる世界。
俺、ダイキのいる世界。
マリちゃんはコーラを飲みながら、ちゃんと管理していた。
「世界は消さないよ」
マリちゃんは笑う。
「おいしいコーラがある世界だもん」

そう、強くふられたコーラは世界を救わない。
コーラはおいしく楽しむものだ。

マリちゃんの手の中で、俺は今日も英雄になる。
今日も世界は平和で、
俺はこっち側でのど飴をがりりとかじる。


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