ずっと自由で 01


僕、石渡真人(いしわたりまひと)が、
ミュージシャン志望の、
高野晃司(たかのこうじ)に出会ったのは、
厳密に言えば高校2年の夏のことだった。
それまで同じ高校に通っていて、
晃司は軽音部。
僕は文芸部に所属していた。
ただ、マンモス学校で、接点なんて何一つなかった。

経緯はこうだ。
僕はとある女子生徒に恋をした。
告白だってしたけれど、ふられた。
その女子生徒が好きだというのが、
高野晃司のようなタイプで、
僕はそのお手伝いをしようとした。
そのくらいその彼女に熱を上げていたんだ、僕は。
折しも夏休み。
僕は社交的ではないけれど、
彼女のために軽音部の情報をかき集めた。
そして、夏祭りの日に、小さなライブをすることをつかんだ。
ライブをするなら練習をしているだろうと、
僕は練習をしているらしい、楽器屋のスタジオをのぞきに行った。

高野晃司をその時にはじめて見た。
なるほど、すらりとして男前な男だ、というのが第一印象。
彼女はそういう男が好きなのかというのが、あとから来て、
ちんちくりんの僕じゃ逆立ちしてもなれないタイプだなと思った。

音漏れのしないスタジオをのぞきこんでいたら、
何かの拍子に扉が開いた。
扉に寄りかかっていた僕は、
転ぶように室内に転がり込む。
「あれ」
と、扉を開けたメンバーの一人がびっくりしていた。
「誰だ?」
「知り合いか?」
僕は、腹をくくった。
「私立水代高校2年D組、石渡真人。文芸部所属です」
「ぶんげいぶ?」
「とある女生徒のために高野晃司さんのことを調べていました」
僕は隠さず答える。
高野晃司は歌を担当しているらしく、
マイクをもてあそんでいた。
そして、僕に質問をしてきた。
「石渡、っていったな」
「はい」
「その女生徒ってのはお前の恋人か?」
「いいえ、告白してふられました」
「それでもその女のために俺を調べてる、と」
「はい、愛は誠実さで得るものと信じているからです」
「さすが文芸部、誠実さで得る、か。でもな」
「でも?」
「やめとけ。俺に惚れる女ってのはろくなのがいない」
「自慢ですか?」
「事実だ。最後に、イメージと違うって言い残して俺をふるんだ」
高野晃司は大きくため息。
「てめぇのイメージなんて知るかよって、何度思ったか知らない」
「まったく、愛っていくらでしょう、ですね」
僕は何となく、どこかの歌詞を引っ張り出して呟いた。
高野晃司は目を見開いて、
「ヒデだ!お前ヒデが好きなのか?」
「ええ、アルバム何枚か持っている程度には」

この瞬間、
高野晃司は、晃司になり、
僕らの接点が生まれた。
即ち、友人だ。


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