ずっと自由で 02
彼、高野晃司は、
複雑な家庭と、たぐいまれな音楽センスと、
それから、高校生に不似合いな大人びた一面が織りなす、
一種の作品だと僕は思う。
僕は、晃司にはよく、妙に達観しているくせにガキっぽいと言われた。
よく見ているなぁと思う。
よくよく聞いてみたところ、
歌詞を書くのに、人の機微を知る、そのくらいできないとな、と、言われた。
歌詞とは?と、聞き返すと、
「いずれ、でかい箱を満員にできたら、自作の曲もいいだろうなぁって」
「いいですね。晃司ならできますよ」
「真人もなんか書いてくれよ」
「僕なんか、とんでもないです」
「作曲俺がやるぜ」
「なおさらとんでもないです」
僕は本当にそう思った。
晃司が僕の書いた詩を歌うっていうのは、
考えただけで、とんでもないものだ。
「考えとけよ」
晃司は一方的にそう言った。
僕は、あうあうとか何とか言いながら、
その場を押されてしまったのである。
僕には。
ささやかながらも大きな夢がある。
それは、文章を形にして、誰かの感想を聞きたいというもの。
誰かの感想。
まずはそこから。
晃司のように、でかい箱なんて望みは、
僕は持ち合わせちゃいけないと思う。
今までいくつも文章は書いたけれど、
感想が得られたためしはなく、
僕は自分がどう進むべきか、悩んでいた。
このままでいいのか、
別の表現も入れるべきか。
誰か、何か言ってほしかった。
でも、否定されるのが怖くて、
結局発表にすら、こぎつけていない。
僕の文章を、晃司に見せたらどんな反応をするだろうか。
歌詞を書けなんて言われることが、なくなるんじゃないか。
僕はその反応にかけてみることにした。
短編3本。
とりあえず印刷して、見せた。
その日の晃司は、僕の短編を食い入るように見ていた。
短いそれを何度も読み返していた。
読み終わってため息を一つ。長く。
「真人ぉ」
「はい」
「真人の夢ってなんだ?」
「あの、その」
「なんだ?」
「…感想がほしいです」
「それが夢?」
「はい…」
晃司はふきだした。
ゲラゲラ笑った。
そして、僕の肩をバンバン叩いて、
「夢はでかく持て!真人ならできる!作家になって食ってけよ!」
「ええええ!」
「夢って食べれるのと聞かれたら、食べれるって言ってやれ!」
「勘弁してください…」
「それじゃ、この短編の感想から行くか。夢への第一歩と思え」
晃司は、事細かな感想を僕にくれた。
僕はうなずいたり、こういう意図があったと説明しているうちに、
ああ、こういうことをしたかったんだと腑に落ちた。
そして、歌詞を書けと冗談交じりに言われる。
やっぱり僕は、とんでもないと思うのだ。