ずっと自由で 03
「暮れゆく日々眺めてたら」
晃司が歌を口ずさむ。
やっぱりヒデは別格らしく、
僕が思うに、鼻歌にしても口ずさむにしても、
ヒデの歌だけ、丁寧に歌っている気がする。
「夏祭りのライブっていうのは、どうなりました?」
「ライブ、ああ」
晃司が答える。
何でも、野外の広場、ちっちゃな会場で3曲らしい。
「高校生ならそんなもんだよ」
「でも、すごいですね」
「なにがすごいんだか」
「人の前で演奏するってのが、すごいです」
「俺にとっては、真人の方がすごいけどな」
「へ?」
僕は虚を突かれた。
こっちに来るとは思わなかった。
「あれから原稿持ってこないけど、あれだけで終わりなのか?」
「あるんですけど…」
「けど?」
「あの、いっぱいあります…」
「そういうとこがすごいんだよ、真人は」
晃司はそういって笑った。
「俺の中で、ヒデはアーティストなんだ」
「アーティスト」
僕は復唱する。
「ヒデは、音楽で芸術してたと信じてる」
「だからアーティスト」
「うん、ミュージシャンはたくさんいるけど」
「表現と芸術と、敬意をこめて、ですね」
僕は言葉を先取りをしてみる。
僕もヒデが好きだ。
アーティスト。
なるほど、しっくりくる言葉だ。
ヒデは芸術という言葉を使われたら、
苦笑いするかもしれない。
それでも、僕らのような高校生にとっては、
ヒデは一つの芸術を作ったと思っている。
偉大なアーティストで、最高のロッカーで、
賛辞を述べたら山ほどになる、そんな唯一の人だ。
「敬意か。うん。そうだな」
晃司にも気持ちが伝わった気がする。
僕らはヒデという一つの概念?を通して、
感覚を共有しているのかもしれない。
「ヒデをカミサマにするのとは違うけどさ」
「うん」
「やっぱり、俺は、俺たちは、ヒデが好きなんだよ」
「そうですね」
多分、だから。
晃司はヒデの歌は丁寧に歌う。
やっぱりヒデは照れ笑いするかもしれないけれど、
僕らにとっては、
それだけの価値のある歌なのだ。
「暮れゆく日々眺めてたら」
晃司の口ずさむ歌、そして、
脳裏に流れるヒデの歌。