ずっと自由で 04


「ねぇ、石渡君」
ぼくの憧れの彼女が、
ある日、僕に電話をしてきた。
「石渡君が、高野君と友達って、本当?」
「はい、最近友人になりました」
僕は包み隠さず答える。
逆に彼女が携帯電話の向こうで絶句しているらしい。
僕もそれ以上、答える義務もない。
「あの、石渡君」
「なんでしょう。晃司のライブでしたら、夏休みの終わりころですよ」
「そうなんだけど、えっとね」
彼女曰く、要約すると、
高野晃司に会いたいとのことだった。
僕は憧れの彼女のためと、了承した。

数日後の楽器店のスタジオ。
軽音部の高野晃司が借りているその時間に、
僕と、彼女はやってきた。
彼女は学校で見た時とは違っていて、
明らかにおめかしをしていた。

スタジオの扉をガチャガチャわざと言わせて、
晃司が気が付くのを待つ。
演奏に没頭していると、たまに気が付かないけれど、
たいていは気が付いてくれる。
今回も気が付いてくれた。

扉が開いて、
「真人か?」
と、晃司が顔を見せる。
「はい、僕です。それと、彼女が晃司に会いたいらしいので連れてきました」
僕は彼女の方を示す。
彼女はぽーっとしていたけれど、
少しの間の後、
かわいい笑顔を見事に作って見せた。
さすが女の子だ。

「真人をふった女ってのは、あんたか?」
晃司は、少し不機嫌そうに、そういう。
「ええと、石渡君は恋人には、その…」
いきなり僕をふったことが出てきて、彼女は動揺したらしい。
「真人は大事な友人だ」
晃司はきっぱりと言った。
「真人を利用したりバカにすることがあったら、あんたを敵とみなすから覚えとけよ」
「え…」
「俺は多分、あんたのことが嫌いだ」
彼女は、僕と晃司を交互に見た後、
いたたまれなくなったのか、
何も言わずに去っていった。
僕らは追うことをしなかった。

「真人」
「はい」
「今でもあの女が好きなのか?」
「好き、な、はずでした」
「はず、かぁ…」
あこがれていたはずなのに、なぜだろう。
彼女が去って行って、よかったとも思っている。
「消えていく 最初のメロディー」
晃司が呟く。
「どこでナクシタのだろう? ですか?」
「真人の最初のメロディーが、消えたなーって思った」
「最初の」
「悪いことじゃないさ。でも、少しさびしいだろ」
「そうですね。でも」
「でも?」
「僕らはそうして大人になるんですよ」

僕がそういうと、晃司は笑って僕の頭をくしゃくしゃに撫でた。


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