九龍的日常:5月2日


「イベント?」
俺は思わず聞き返した。
「そう、5月22日には何かイベントするんでしょ?」
「そんなこと言われてもなぁ…」
俺はそんな企画ができる性質じゃない。

俺はシアン。
見習い風水師に毛が生えた程度の風水師。
髪型が坊主なわけじゃない。
今日は九龍大飯店で飯を食べていたら、
雇われのバーテンダーをしている、
シャックーに聞かれた次第だ。

シャックーは最近クーロンにやってきて、
カクテルを作る腕を買われて大飯店にいる。
そのほかに、クーロンらしい食事をちまちま作っては、
やってくる人に提供している。
少々気が弱く見える青年だ。
で、シャックーも噂についてはさとい方で、
最初のイベントの話になるわけだ。

「エイディーもうわさは聞いてたね、5月22日の」
「それで、やるの?」
「俺が決めることじゃないよ」
「町のことは誰が決めるの?」
「そうだなぁ…」
俺は宙に視線を投げる。
この町のことは誰が決めるのか。

「最近来たからよくわかんないんだけどさ」
「ああ」
「この町の一番の決定権は誰が持っているの?」
「簡単だ。この町が持っているのさ」
「はい?」

シャックーは理解しづらいという顔をした。
俺もこれを飲み込むのは、ちょっと時間がかかった。
でも、この町がこの町であるのは、
誰の決定でもなく、
この町が選んだから、この町があるのだ。

「例えば、シャックーのカクテルがこの町に定着したのは」
「うん」
「この町の住民がおいしいと思って、さらに」
「さらに?」
「この町が、このカクテルを望んだのさ。この町に存在してほしいとね」
「この町が、かぁ…」
シャックーはシェーカーをもてあそぶ。
まだ、町が生きている感覚は、伝わっていないかもしれない。

でも、ここにいたら、いやというほど思い知ることになると思うんだ。
俺が、そうだった。


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