九龍的日常:5月3日


あたしはビビアン。
今はこの名前を使ってる。
最初につけられた名前は、もっときれいな名前だった。
エリザベスだっけ、ビクトリアだっけ。
なんか、貴族とか女王様みたいな感じだった。
あたしは反発して、
結局今はビビアンという名前を使っている。
なんか、自由な気がする。

あたしはこれでいて暗殺を依頼されている。
何でも不動産屋を暗殺してほしいということだ。
不動産屋って何とか思ったけど、
お金が動くと、恨みも動く。
ま、そういうことなんじゃないかなと思った。

さて、下調べをして、クーロンの町にやってきたら、
ちょっとおかしなことになった。
不動産屋が、変わったらしい。
確か暗殺のターゲットは、チョコ何とかさんらしいんだけど、
チョコ何とかさん、この町からいなくなったって。
「逃げられたかな」
あたしはぽつりとぼやいた。
地産代理という建物は残っているけど、
どうも、ここに戻ってくる気配はないようだ。

「あれー?」
どこか気の抜けた男の声がかかった。
「部屋借りる人?チョコさんはもういないよ」
「そう、それで、あなたは何?」
「俺はケージ。やる気のない風水師」
「やる気のない?」
「うん、ない」
ケージはそういうと、にこーっと笑った。
邪気のない笑いだなぁ。

「あたしはビビアン」
「暗殺者でしょ」
ケージはいきなりズバリと言い当てた。
「まぁ、標的いないんならしょうがないよ」
あたしが黙っていると、
「暗殺者にも休みが必要だよ。噂ではイベントがあるらしいんだ」
「イベント?」
「あってもなくても、5月22日は特別なんだ」
「ふぅん…」

あたしは決めた。
ここでしばらくバカンス決め込もう。
優雅とは言い難い町だけど、
あたしは優雅とは無縁なの。
だってあたしは自由なビビアン。
どこに行っても、あたしはビビアン。

私が決めた。今決めた。


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