九龍的日常:5月4日


黄色いエプロンをかけた、
ホァンおばさんが、老人中心にいた。
点心のおいしい店があったのを思い出して、
歩いたはいいけれど迷子になったらしい。
たまたま、ロックが見つけて、
点心のおいしいお店の見当もつけたところだ。
「きっと西城路のお店じゃないかな」
「さいじょ…うろ?」
「ああ、通りも頭に入ってないか。しょうがないな」
「ごめんねぇ、おばさんは物覚え悪くて」
「いいんだ。それにしても、なんでここまで?」
ホァンおばさんは、
大飯店のシャックーのお手伝いを主にしているはずだ。
料理はホァンおばさん。
軽い料理までならシャックーでもどうにかなるけれど、
割と本格的なものまで、
ホァンおばさんのレシピは網羅している。

「ロックには笑われるかしら」
「どうだろう?」
「イベントがあるらしくてね、それに向けて点心のレシピを…」
「ああ、なるほど。そういうことなら笑わないよ」
ロックは九龍的であることには寛容だ。
まだ、九龍的であることを模索している最中ではあるけれど。
「とにかく戻ろう。シャックーがてんてこまいしてるよ」
「シャックー泣いちゃうかしら」
「その前に、ですよ」
「はいはい」
ホァンおばさんは、老人中心の建物の中を、ぐるりと見る。
「なんで老人中心なのかしらね」
「昔ここで老人たちがダンスをしていた、らしいですよ」
「誰が言ってたの?」
「エイディー」
「そうなんだ」

「ホァンさんはまだ老人じゃないんですから」
「どうかしらね」
「この町は老人も若者も、みんなひとくくりで住人ですから」
ホァンは笑った。
「私、そんな町で料理を作りたかったの」
「そりゃよかった」
「新入りが料理を作ってもいいものかしら」
ロックはにやりと笑った。
「すでに九龍の住人が何をおっしゃる」

ホァンはキョトンとして、そのあと、大きく笑った。
さぁ、大飯店に戻ろう。
シャックーが泣き出す前に。


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