九龍的日常:5月5日


カートンという大柄の髭のおじさんが、
西城路を歩いていた。
無類のタバコ好きで、
名前もそこからつけている。

どこかで煙管がもらえると聞いて、
このあたりをちょっとうろうろしているところだ。
洒落た煙管はいいものだ。
ただ、この町はまともではないから、
洒落た煙管がどうなっていることやら。

「おじさん」
不意に上から、声。
ネオンに紛れて、
おもちゃを使って飛んでいる少年が見えた。
「おじさんも九龍は初心者?」
「君は?」
「トラ」
「トラ君か。俺はカートンという」
「カートン。エイディーからうわさで聞いた。煙管探し?」
「ああ、変わった煙管と聞いている」
「んー、おじさんが気に入るかわかんないけどねー」
トラ少年はいたずらっぽく笑う。
「西城路に目を付けたのは正解だよ。おじさん」
「そうか、では店の中かな」
「そんなところ。集めるときりがないからね」
「きりがない?」
「コンプリートに何年もかかる人がいるってさ」
カートンは笑った。
「面白い町だ、ここは」

結局カートンは、
煙管とは思いにくいものをくわえる羽目になった。
トラはくすくす笑っている。
「おじさん、似合ってるー」
「そうさ、おじさんはタバコがらみならなんでも似合うんだ」
カートンが大真面目でいうものだから、
トラはさらに笑う羽目になる。

「おじさんはもう聞いたかな、イベントの噂」
「イベント?それはなんだい?」

「5月22日にね…」
トラはイベントの概要らしいものを説明する。
おかしな煙管をくわえたカートンは、ふんふんとうなずいて聞いている。

この町は、おかしなものに満ちている。
カートンはそんなことを思う。


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