九龍的日常:5月6日
ワントンルーという商店街がある。
萬灯路でワントンルーだと思われる。
リュイはその通りをつらつらと歩いていた。
ホァンおばさんの料理に、不思議な点心が加わった。
西城路でレシピを見つけたと言っていたけど、
西城路って向こう側かな。
よく行けたものだなとリュイは思う。
リュイは飴玉を口に含みながら、ワントンルーを歩く。
飴玉でいいの、と、リュイは思う。
苦い固い種のない、甘いだけの飴玉でいいの。
リュイはいろいろなところで、いろいろな経験をした少女だ。
彼女から話すことはあるまい。
ただ、だから、か。
リュイはいつも微笑んでいる。
恋に恋する少女の純粋さを、演じている。
いや、リュイは純粋な恋、それだけはしたことがないのかもしれない。
生きることは飴玉を転がすことで構わない。
甘いだけでいいの。
とろりとろり、飴玉からほどかれる、甘い甘い物語。
際限なく甘く、優しすぎて、
居場所を忘れそうになる。
ここは九龍。
こきたない町だけど、
住民はたいてい親切で、
飴玉のような優しさを思い出す。
だめだなぁ。
リュイは微笑みの顔のまま、思う。
真実って、こんなに甘いものだっけかと。
痛みだらけの真実。
ここにはそれがない。
おいしい点心と、おいしいカクテルと。
不思議な飴玉。
誰がくれたんだっけ。
そう、飯店のどこかで誰かと会って…思い出せない。
生きるなんて甘い飴玉でいいの。
リュイの考えは元に戻る。
飴玉でいいの、飴玉でいいの。
そう何度も唱えるのに、
ワントンルーの明かりは、彼女の涙を時折照らす。
リュイはそのことに、目を閉じた。
知らない、ふりをした。