自由落下の風景


気がついたらそうだった。
僕は自由落下している。

空気が僕の耳元で、
ごうごう唸りをあげては過ぎ去っていく。
目に見えるものは青。
空の、青。
僕は空に沈んでいく。
沈むならば、あがくのはこっけいだ。
ここは自由。
この瞬間僕は何物にも縛られていない。
自由だ。

ただひとつ、僕を呼ぶ引力。
それ以外は自由なのだ。

僕は空を見上げるような格好で、
ひとつだけの引力に向かって落ち続けているらしい。
ああ、空を見上げていたら、空しか見えないな。
引力は今、僕の背にあるらしい。
それはどういうものだろうか。
僕は寝返りをうつように空で向きを変える。
夢を見ながらの寝返りのように、緩慢に、
僕を引き寄せようとするその方に僕は向こうしているはず。
自由落下する先に何があるのか。
遥か彼方の引力。

僕は引力のほうを向こうとしているはず。
僕は沈んでいく。
限りない青の中に。
ごうごう唸りをあげる空気。
緩慢な寝返りの中で、
僕は青の中を泳ぐ風景たちを見る。
それは見たこともない風景たち。
きらきらと欠片のような風景が、流れていく。
視界いっぱいに広がったかと思えば、
青の中にまたとけたり、
上へと逃げていってしまう風景たち。
目の中に風景が入ってきて、
目を胸を刺激するほど痛むこともある。
一体この風景はなんなのだろうか。

僕はここで自由を身体いっぱいに感じている。
僕には何もない。
本当に僕には何もない。
だから、自由。
何でも出来る。
不可能は何もない。
無だからこその可能性だらけの存在。
自由!自由!
その自由に入ってくるこの風景たちというものはなんだろう。
それらは一体、どうしてこの空にあるのだろう。
欠片の風景。
時折、視神経から感覚いっぱいに何かが広がる、
そんな、説明付けにくい風景たち。

風景は僕の目から入ってきて、
視神経に乗って、僕の感覚をちょっとだけ乗っ取って逃げていく。
これはそんな自由落下の風景たち。
落下の中で横切っていく風景と感覚。
あるいはこれもまた自由の物語かもしれない。

これは、僕の感覚を乗っ取っては逃げていく、
彼方の引力に引き寄せられる僕の感覚の物語。


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