あしおと


いくつもの足音が聞こえる。
私はそれを、最近になって認識しはじめた。
一度聞こえるようになると耳についていけない。
「なにか」の、足音。
いくつも、いくつも。

帰宅の途中と思って欲しい。
町がカボチャのおばけでにぎやかで、
日が沈むと少しばかり肌寒い。
駅の改札を出た先の商店街。
私はそこを歩く。
ごくごく普通の商店街と思って欲しい。
そこに、いつもシャッターが閉まったままの空間がある。
私がその商店街の、そこ、を見つけたのは、
ただの偶然だと思う。
シャッターが閉まったままのそこは、
商店街の細い横道に入らないとわからない。
しかも、商店街側から見ただけでは、
ただの行き止まりにしか見えない。
ただの好奇心だったか、ただの偶然か。
私は閉じたシャッターと、そこに出ている看板を知っている。
そこはアクリルの看板示すところ、
靴屋であったらしい。

何かの足音が日に日に増していくのを感じる。
多分、数を増している。
軽いいくつもの足音が、
私の回り縦横無尽に歩いていると感じる。
ぱた、ぱた、ぱた、
誰にも聞こえない何かの足音。
何かを探しているような、迷っているような。

ある日の帰宅途中の話だ。
夜も更けて商店街はしんとしていて、
今思えば、いつもの足音しか聞こえなかった。
足音は減らす手立ても見つからないまま増え続け、
規則のない潮騒の音とすら思えるほど。
私は、多分少しばかり狂っていた。
そうでなければ、どこかおかしいと感じていたはずだった。
真っ暗で明かりのない商店街の、ある場所を目指して歩いた。
前述した靴屋の閉まった行き止まり。
私は何かを予感していたのか。

靴屋のアクリル看板の電灯がともる。
シャッターは開かない。
ただ、間が少しだけ、永遠のように。
当たり前のように看板の電灯が消えて、
足音が、ひとつひとつ引いていって…
こつ、こつ、こつ、
という硬い足音に変わり、ひとつひとつ私から離れて行った。

気の抜けた軽い足音は、軒並み靴音に変わって去って行った。
私はため息をひとつして、
靴屋のシャッターに礼をして、その場を辞した。

その後、あの靴屋を探しても、
私は見つけることが出来なかった。

商店街を、ハロウィンの仮装をした子供達が、
シューズの足音で走っている。
おばけも靴がなくちゃしまりがないのかもしれない。


次へ

インデックスへ戻る