怪談:最強の文庫


私が思うに、
本好きにもいろいろな人がいる。
読む人はもちろんだし、
デザインが好きな人もいるし、
臭いが好きな人もいる。
それでも、大抵の人にわかってもらえないのは、
本を戦わせるのが好きな人がいること。
本当にいるんだ、そういう人が。

本というものは、
人間の執念が、もれなくついている。
伝えたい、わかってほしい、感想がほしい。
この世界を見てほしい、感性を見てほしい。
いろいろな執念。
人間が文字を持ち、紙を持ち、
今に至るまで、執念は本とともにいた。
本を戦わせるのは、
その執念に、
呪術的なものと、電脳的なものをかけ合わせ、
専用スキャナで本を読みこむ。
文庫本の付喪神的なものを、
パソコンなどで作った、仮想空間のリングに呼び出す。
仮想空間で本は姿を持って戦う。

本の強さは、執念の強さで決まる。
新品の本より、何度も読みこまれた本のほうが執念は強い。
かといって、昔の本なら何でも勝てるかというとそうでもない。
相性もあるし、トリッキーな本だってある。
ぶ厚ければ情報が多いだろうと言われるが、
それもまた、執念の強さとは少し違うものだ。

本を愛する形はいろいろある。
戦わせるのもまた、愛だ。
最強の本は誰なのか、
無数にある本に、最強を探す。
新書、文庫、ビジネス書、写真集。
最強はどこにいる。
最強の執念はどこにいる。

そこに、最近現れた最強候補の本がいる。
その本は何かを伝えたくて、仮想空間に読み込まれた。
伝えたい執念が桁違いで、
ステータスとしては、文庫本を読み込まれたものらしい。
ただ、分厚い文庫本らしいが、
タイトル作者が同じ文庫本でも、これほど執念をつけているのは珍しい。
その時は珍しいなということで対戦、その後解散をした。
すごい奴が出てきたなと思った。

後日。
ネットの殺人事件のニュースに、
犯人は手近にあった文庫本で被害者の頭を殴打。
と、あり、まさかと思った。
伝えたい執念は、まさか。

最強の文庫本は、その日から見なくなった。


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