怪談:おもいで
思い出の中に、私はいない。
あなたの思い出話を私は聞いている。
その思い出に私はいない。
まだ、私と知り合う前の思い出の話だ。
あなたはとても言葉を巧みに使い、
思い出の情景をそこにあるかのように編み上げる。
やんちゃをした川。
うつむいたヒマワリの道。
ゆうやけこやけ。
おにごっこにかくれんぼ。
私の知らない、あなたの思い出。
怖い話もいくつも聞いたとあなたは言う。
私はその怖い話をひとつも知らないので、
とても面白く聞き入る。
あなたはやっぱり言葉の選びが巧みで、
私をぞっとさせることもできる。
思い出の中のあなたも、
こんな風にぞっとしたのかな。
あなたの話が途切れて、
二人して、飲み物飲んでため息ひとつ。
あなたの思い出を私の中で転がす。
見たこともない景色。
なのになんだか懐かしい。
そこに、赤い着物の女の子一人。
かざぐるまをまわしている。
私は、なんとなく女の子のことをあなたに話す。
そんな子いなかった?と。
あなたの顔色が変わる。
話して、ないよな、と。
話された覚えはない。
ただ、転がした思い出に、少女がいる。
「誰も覚えてないんだ」
あなたは言う。
「赤い着物のかざぐるまの子。いつも一緒にいたのに」
誰も覚えてないんだ、と、あなたは言う。
あなたがおかしいとは私は思わない。
私は提案する。
「思い出の中に、その子はいるのよ」
「ああ…そっか」
少女が笑った気がした。
「誰も覚えてなくても、私たちが覚えてる」
「そうか、それでいいんだ」
記憶なんてそんなもの。
今度は私の思い出を話そう。
ある日消えてしまった、赤い着物の女の子の話。
なぜか、誰も覚えていない少女の話。
かくれんぼをしていて、そのままいなくなった。
かざぐるまを、いつも持っていた。
神隠しなんていわれていたけれど。
本当に、誰の記憶からも消えてしまった。
私の思い出からも消えてしまっていたけれど。
なんだ、ここにいたんだ。
みーつけた。