怪談:さかさま


視界がさかさまになること。
少なくもないし、多くもないのかもしれない。
例えば、ちょっと疲れて椅子にもたれかかり、
椅子の加減によっては、
さかさまの視界があることもあるかもしれない。

さかさまの世界は、結構近くにあるものだ。
さかさまと最初からわかっていれば補正がきく。
わからない場合、
その世界を普通の世界と認識できるだろうか。

私の話をはじめようか。
私はパソコンを相手に仕事をしている、
少々疲れ気味の会社員と思ってほしい。
例によって残業していて、
例によって椅子にもたれかかり、
頭は上を向くのを通り越して、
後ろの風景をさかさまに見ていた。
メガネがずれて、視界はおかしなことになっている。

この部屋の天井らしいところで宴会をしているやつがいる。

「よぉ」
宴会をしていた何かが、
私に気が付いた。
「残業なんてやめて、宴会しようぜ」
ぼやけた視界のなか、
そいつらは私を宴会に誘う。
なんだろうこいつら。
「ああ、お前まださかさまなのか」
「?」
私は疑問符を飛ばすしかできない。
天井で宴会している方がさかさまじゃないかと。
「俺たちは自分のさかさまを直して、こうして宴会している」
「なおして?」
「さかさまの使いさ」
「さかさまの使い?」
「その手を取れば、さかさまの世界で終わらない宴会ができるのさ」

私は頭に血が上り、ぼんやりしてきた。
それでも、さかさまの使いという単語は記憶に残した。

私は席を立って夜の窓を開ける。
終わらない宴会などほしくはないが、
少し、私は休みたい。
それでもいいだろうか、窓の外のさかさまの使い。

私は窓から手を、身体を、足を、出して、
手を取ると、
落下のような上昇。

私は今も天井で休んでいる。
視界がさかさまになったとき、
私が微笑んでいるのを、見るかもしれない。


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