怪談:せんたん


先端が怖いのです。

彼女はそんなことを言っていた。
先端、針の先とか本当にダメで、
それなりに苦労してきたらしい。
先端が怖いというのは、よく聞く方かもしれない。
そりゃ、鋭くとがったものは怖い。
人間だからという前に、本能で怖いんじゃないかなぁ。
牙だって爪だって、
大体先はとがっている。

僕がそんな一般論的なことを言うと、
彼女は複雑な顔をした。
間違ったことべらべらしゃべっちゃったかなと思ったら、
彼女はぽつぽつと話をはじめた。

「目を開いて眠る夢を見ます」
語り出しがそれだった。
僕は想像しようとして、
彼女が部屋をちゃんと見て眠っている、と、
合っているのかわからない想像に落ち着いた。

「いろいろな先端が、動けない私の目に、刺さっていく夢を見ます」
僕は想像しようとする。
針が、例えば、動けないけれど見えている状態の、
彼女に刺さっていくのは、
そりゃ怖い。

彼女はぽつぽつ語る。
指が目に刺さる。
針が目に刺さる。
ナイフのとがったのが刺さる。
どんどんとがったものが刺さる。
恐怖は薄れるどころか増幅して、
痛みより先端が怖くて、
眠るのが毎日苦痛だという。

「痛みがあるの?」
僕は尋ねる。
「先端が刺さるんですから、痛いですよ」
夢とはいえ、それは怖い。

そう、僕は彼女の話を、
痛い夢として片づけた。
そうするしかなかった。

そんな彼女の話を、
僕は家に帰ってすっかり忘れていたが、
眠りに落ちて思い出した。
僕は天井を見ている。
眠っているのに天井を見ている。
目が開いていて、何かがゆっくり天井から落ちてくる。
とがった、針が。
僕の目を目指して、
ゆっくり、ゆっくり。
針で終わりでないことを、
僕は見えている天井から知る。

びっしりと、鋭い先端が。


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