迎春


春を迎えて、ではないよな。
葉書を見ながら、僕は考える。
この状況のどこが春なんだ。
まだ雪が降る季節。
この季節に毎年迎春なんて、
ズレもいいところだろう。

わかっているさ。
迎春のこの葉書は挨拶だってこと。
僕だってわからないほどズレてはいないさ。
けれど、この季節を春と言うには、
僕は納得いっていないだけ。

春を迎えに。
いろんな季節があるけれど、
春ほどみんなに待たれている季節もないと思うんだ。
僕が今年は迎えに行くくらいの気持ちで。
どよんとした冬空を見ながら、
この空いっぱいに春を広げることを想像する。
春の空。
いらっしゃい、だろうか。
また会えたね、だろうか。
待っていたよ、だろうか。
どの言葉を尽くしても、春を待っていた気持ちが届かなくて。

さて、餅でも焼こう。
この季節にぐうたらしながら食べるもの。
ぐうたらに飽きたら、春を迎えにいこう。
そう、春を迎えに行く招待状なんだ、この葉書はきっと。
みんなで春を迎えにいこう。

新年明けましておめでとうございます、の葉書。
みんなに届くそれは、
春を迎えに行く招待状。
まだ春はきていない。
だから、みんなで春を目覚めさせに行こう。
いっぱい春が目覚めて、それはすごく素敵なことだと思う。

僕は、郵便受けの前でくしゃみをひとつ。
寒い寒い。
やっぱり、何を言おうとも、ここはまだ冬だ。
みんなの分の年賀葉書を取って、
餅のことをもう一度考える。
きなこがいいな。

ふと、ひらりと何かが舞った。
梅にすらまだ早いけれど、
僕はそれを花びらのようだと思った。
うん、春はきっと起こされるのを待っているんだ。

今は惰眠をむさぼるがいいさ。
僕も、春も。
そのときがきたら、みんなで迎えに行くから。
うん、なんだか花嫁でも迎えに行くみたいだな。
それはそれでいいや。

梅すら早く。
桜なんてとてもとても。
でも、僕らはきっと、春を迎えに行く。
そして、春はここにもきっと来るんだ。


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