電子ジャーの場合


封印せよ。
わが身にそれを封印するのだ!

私は食を守っていた。
この身にご飯を宿し、
ホカホカとしたそれを、みんなに分け与える。
お米が私の中で、
ホカホカご飯に変わっていく。
毎日ご飯を炊いて、
みんなは笑顔で。
台所のほかの連中も幸せそうで、
この身がご飯を炊くものになっていることも、
気にすることなく、幸せだった。

転機は汚れた台所で起こった。
やつが現れた。
邪気ともまた違う、やつ。
やつは汚れを撒き散らし、増える。
連鎖を起こして台所は汚れた。
食材は傷み、食器は汚れ、
もはや、食を扱う場所でなくなった。

私は、やつをどうにかしようと、
戦った、抗った。
台所は戦場となった。
食を命を守るための、戦争だ。

ひとり、またひとり、
台所を守っていた妄人戦士が壊れていく。
やつらはどんどん増えていく。
私は、決意をした。

私が使えなくなってもかまわない。
食を命をつなげなくなってもかまわない。
やつらを、この身の中に封印するのだ。
もう、ホカホカご飯は炊けないだろう。
みんながおいしいといってくれることはない。
笑顔はもう見れない。
私は、忌むべきものになって、
永遠にみんなの前から消えよう。

私はやつらと対峙する。
私は、私のふたを開けて、内側におびき寄せる。
全部、全部封じるのだ。
うぞうぞと私の中でうごめき続ける、やつら。
ふたをしろ、今ならやつらを一網打尽にできる。
私はやつらを閉じ込める。
台所の敵を、憎むべき敵を、
私の中に、封じ込めて、
私は、私は、
思考ががさがさいっている。
やめろ、とまれ、
思考はぎりぎりのところでとどまっている。
それは、台所が平和だった頃の幸せ。
この身がホカホカのご飯で満たされていた記憶。
かさかさかさかさ。
耐えろ。
この内側からやつらを出してはいけない。
私は物ではない。
私は台所を、守り、抜いた、はず。

私は人、私は物。
私は妄人。
妄想の果てに物になりかかっている、妄人。
私は電子ジャーの妄人。


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