煙管犬の場合
強くなる必要などないのさ。
はいつくばって犬になればいい。
そこにも、うまいタバコはあるのだから。
尻尾振ってりゃ皆さんご満足。
俺は人である時からそんな感じだった。
薄らピンぼけた記憶が言ってるんだからそうなんだろう。
尻尾振って、バカな犬を演じているような俺だった。
そもそも、俺はバカだったのかもしれないけれど、
間抜け面さらして笑っているやつらよりはましだと思っていた。
地べたを見つめながら歩き、
たまにシケモク見つけては拾う。
上見て歩いたって、うまいタバコがあるわけじゃない。
ビルに配線に配管に、切り取られた空の底で、
上を目指して何になる。
いつしか上を見なくなった。
いつしか背を上げるのが億劫になった。
いつしか、四足で歩いていた。
いつしか、犬のようになっていた。
犬はいいものだ。
シケモクのにおいがよくわかる。
俺はいつから犬だったんだろう。
人だった頃があったんだろうか。
ああ、タバコが吸いたい、タバコが吸いたい。
タバコの煙を満たしたい。
タバコタバコ。
うまいタバコが吸いたい。
タバコの煙は極上の妄想。
思考を駆け巡る、魂の叫び。
俺は煙を思いっきり吐き出して、遠吠えをひとつ。
俺は負け犬なんだろうか?
犬にもなれないやつらに言われたくはないさ。
俺はうまいタバコのありかを知っている。
あんたらのプライドが邪魔しているそこに、
極上のタバコが落ちてるのさ。
また、落ちているシケモクを、俺は拾う。
口にくわえ、吸い込む。
誰かが落として言った妄想の欠片も、
そのとき思いっきり吸い込んでぐらぐらさせる。
身体はすでに煙管のそれになっていて、
極上の妄想タバコを味わうに申し分なくなった。
煙管を走る誰かの妄想と、
俺自身の妄想が混ざって、
境界なくなって渾然とする。
楽しいと思わないか?
変なプライド捨てると、こんなにも世界は広がるんだぜ?
俺は人、俺は物。
俺は妄人。
妄想の果てに物になりかかっている、妄人。
俺は煙管犬の妄人。