砂場


ミスター・フーは砂場と呼ばれる場所にいた。
静かだ。誰もいない。
ここでは全てが生まれることが出来る。
いろいろなものがここから始まる。

創造の始まりは、無音なのだろうと思う。
破壊もまた無音のように。
その無音を円環に出来ないか。
創造・秩序・破壊を回せないか。
その円環に全てがある、
無音のさなかの中に全てがある。

この町は限りがあるのかもしれない。
いずれ何も残らず消えるのかもしれない。
データはいずれ破壊に飲み込まれる運命にある。
無音の破壊。
そこから円環につなげる無音。
ミスター・フーは思う。
無音の創造とは、物語だと。

存在しないものを存在させ、
記憶に焼き付け、次の創造をうみだす。
それは物語の仕事だ。
全てがある空間に、無音。
その静けさから、全てが始められる。

ミスター・フーはこの町に、この場所に敬意を表す。
存在しないものを存在させる物語。
嘘という狂気に塗り固められた、物語。
ミスター・フーの中で存在していた物語が、
外へと存在を拡大していこうとしている。

「たとえ全てが妄想だとしても」
ミスター・フーはつぶやく。
「その物語が残ればそれでいいのだよ」
狂気の笑み。

存在した証が欲しいのか、
永遠が欲しいのか、
創造したいのか、
破壊したいのか、
多分ミスター・フーは全てが欲しいのだ。

無音の砂場で、
彼の円環が作られる。
存在しないものを存在させる。
その欲望は叶ったか。


次へ

前へ

インデックスへ戻る