階段:とぶ


余計なものがなければ、
人は空だって飛べるんだ。

暗殺と言うにはかわいらしい少女と踊って、
部屋の中をぐちゃぐちゃにして。
今度やってくる家政夫が、逃げないかどうかを考える。
男だったら耐えて見せろと言うのとも違う。
参ったなぁ。
ちょっと特技を伸ばしますって手段持ってたら、
あっちこっちから眼を付けられてかなわない。

まぁ、栗色の髪の彼女は、どこでもやっていけるはずだ。
ちょっと長い間だったから、未練はありありだけどね。
うちの息子の母親には、ちょっと若すぎる。

荒れた部屋を放置して、
窓から飛び降りる。
朱鷺色の和装が風にはためく。
「お師匠様ー!」
落ちた先で、弟子なんて取っていないけれど、
黄色いシャツの少年がニコニコ笑ってる。
その頭をひとなでして、
そういえばアラーム鳴らしたから、
今頃迷彩柄のあいつが来るだろうことを、
頭の端っこに流して、放置する。
とりあえず、息子を迎えに階段へいく。
いつも息子は、その階段を上ってくる。

階段を見下ろせば、
それはきらきらと輝いていた。
よくよく見れば、銀色の空き缶が反射しているのだと気がつく。
なんとも、芸術的だ。
息子は黒い学生服に仏頂面、
明らかにケンカをした顔をしていた。
「まーた拳で語ったか」
「いいんだ、拳は今日で終わりにする」
「ほう?」
「戦うのは拳だけじゃないさ」
息子はにっと笑った。
何か見つけたのだろう。
あるいは、この階段で見つけたのかもしれない。

階段の下でかわいい白いワンピースの暗殺者が、
名残惜しそうに栗色の髪の女性を見て走り去っていった。
赤い髪の青年が階段をおりて、
ロマンスグレーの紳士に何か言っている。
若草色のシャツのおばあさんは元気で、
青いジャンパースカートの女の子は、ぺこぺこと頭を下げて、
水色のネクタイの強面は、たしか、うちに来るはずの家政夫だ。

「それじゃ、そこの家政夫さんと、家の後片付け頼むよ」
「親父?」
「ちょっとでかけてくるよ」
旋風を巻き起こし、空へ。
皆がいる階段を、飛んでいく。

余計なものがなければ飛べる。
どうしてこのことに気がつかないんだろう。

そうか。
飛ばないから階段が面白いんだ。
だから、いろんな人に会えるんだ。

あなたに会える、ここで会える。
そこは最高の舞台。
階段で会える。


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