階段:おちる
欲のままに落ちてしまえ。
強敵のいないゲームセンターは退屈で。
私は町を散策していた。
階段ばかりのこの町は、
不便だと、よく言われる。
平坦でも面白くない。
ありきたりな刺激など、いまさら要らない。
やさしすぎる町は、私には向かない。
勝手知った町を歩き、ある長い階段の途中に、
ゲームセンターの常連の青年が立ち止まっていた。
彼の長い赤い髪はよく目立つ。
それを言ったら、きっと彼は嫌そうな顔をするのだろう。
下から階段を見渡せば、
それこそ様々の人間。
黒い学生服の男子生徒がよたよたと上っていく。
栗色の髪の女性がうつむき加減に降りてくる。
私の隣を黄色いシャツの少年が駆け抜けて、
とんとんと階段を駆け上がっていく。
階段の下には若草色のシャツを着た老婆が軽快に踊っていて、
階段を走っていく迷彩柄の服の男、
そして、振り返っている水色のネクタイの強面の男。
上から、白いワンピースの少女が駆け下りはじめて、
一番上、たくさんの缶を持っていたらしい、
青いジャンパースカートの少女が、つまづいた。
「転びますね、あの子」
私はつぶやく。
想像通りに彼女は派手に空き缶をぶちまける。
たくさんの空き缶が、
階段にいる人々に影響を与え、
階段はひとつの舞台となる。
これはまた面白いものを見た。
さてこの階段で、
何かが変わったとしたら、それはとても面白い。
あの男もそうだろうか。
何かのきっかけを与えて人を変えるのが好きな奴だった。
今でも朱鷺色の和装を着ているのだろうか。
すぐそばで栗色の髪の女性が階段を踏み外す。
私は女性を支え、にっこり微笑む。
こうすると、赤い髪の青年がとても嫌そうな顔をするのだ。
「若いっていいねぇ」
老婆が冷やかし、
そのそばに白いワンピースの少女が、
曇りのないガラスのような目でこっちを見ている。
人は皆、理性や常識で縛られていて、
それがぷつんと切れたときに落ちる姿が私はとても好きだ。
ぎりぎりの綱渡りをしている姿も好きだ。
この階段の下のようなところで、
私は、人が落ちるのを眺めるのが好きなのかもしれない。
さぁ、せいぜいがんばりたまえ、諸君。