祭囃子と迷子の夜


夏祭りは異界へとつながっている。
異界っていうのは別世界。
うーん、つまり、
私たちと違う何かとつながることもある。
私は夏祭りにそんなことを思った。

私と例のコゲマメは、
動きやすい浴衣を着て、
物悲しく蝉の鳴き始める前に、祭りに行った。
神社のあたりでやるものだったと記憶している。
履物すらいつものスニーカーでなく、
歩くとカラコロなる昔ながらの物。
走るには慣れていなくて、
祭りが開放的なのに、足が窮屈だったと記憶している。

神社で祭囃子がなっているのが聞こえる。
やれやれ間に合ったかなと私は思った。
この夏でコゲマメ以外にも田舎の友人が何人かできた。
みんなもう来ているのだろうか。
そんな時、
「裏から上がって驚かそうよ」
コゲマメの悪戯の提案を、うなずいて返したのは、
思い出すたび、不覚だったと思う。

神社の裏手へ私たちは回りこみ、
きっと道が荒れているんだろうなと想像したとおり、
草のすごいところに出た。
私とコゲマメで草を掻き分け、
何が目的だったのか忘れるくらい、必死になって進んだ。

祭囃子は近くならない。
もあんもあんと遠くで。

ふっと、開けた場にたどり着いた。
そこに、キツネの面をかぶった小さな子供。
なんだ、みんなおなじこと考えてるんだと、
私はちょっとがっかりして、
すたすたキツネ面の子供に近寄ると、
「友達みんな待ってるよ、行こう」
そんな声をかけた。
キツネ面の子供は、
「僕は迷子なんだ。友達なんて待ってないよ」
コゲマメはそれを聞いて、
「今日から友達! オッケー問題ない」
いつもの夏の日差しのようにからから笑って、
無邪気に手を差し出す。
キツネ面の子供は手をとって、
「ありがとう」
そういって、気配がなくなった。

私とコゲマメは、気がつけば、二人きり、
神社の裏手で、祭囃子がすぐ近くでなっているのを聞いていた。
こんなに近くだっけかと思ったし、
かきわけた草もない。
私たちは今までどこにいたんだろう。
コゲマメは差し出したその手をじっと見て、
「あったかかったよ」
と、つぶやいた。


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