不思議な虫


コゲマメの話?
したらこの夏が終わるくらいたくさんあるよ。
そんな冗談が言えるくらい、
コゲマメはびっくりさせたりする達人だった。

お互いをモヤシとコゲマメと呼ぶようになってまもなく、
コゲマメは夜に私を連れ出したことがあって、
行き先は、その田舎でも珍しい蛍の群生地だった。
コゲマメがひとつ光を捕まえて、
私の手に乗せたとき、
私はものすごくびっくりしたのを覚えている。
これは、虫だ。
知識では知っていたけれど、蛍は虫だ!
カブトムシとかトンボとか、そういうのと同じ虫だ。
「そっと持たないとつぶしちゃうよ」
コゲマメがささやく。
「これは、虫なんだね」
私は確認するように。
蛍の光の中でコゲマメはうなずく。
「これは、虫。でも、不思議でしょ」
いつものコゲマメなら、
男勝りよろしく、すげーだろ、という感じなのだが、
不思議でしょというのが、コゲマメを少し少女に見せた。

「魂みたいだね」
私はそんなことを言葉にする。
「魂?」
コゲマメが聞き返す。
「生まれ変わりっていうのを何かの本で読んだ」
私の手から蛍が逃げていく。
「うまく言葉に出来ないけど、命ってこんな風に光ってると思う」
コゲマメが笑った。
「モヤシの癖に」
「コゲマメの癖に」
言い合って、笑った。

トンボもカブトムシも、
様々の虫たちも、
私とコゲマメの手にかかっておもちゃになった。
戦わせたり、捕獲したり、時を忘れて追い続けるものだった。
彼らもまた命で、
失われた命は、また魂になってこんな風に光り、
夏にまた虫になって、
また、私たちのような子供とともに夏を生きる。
私はそんな気がした。
コゲマメはどう思っていただろう。

「夏はまた来るよ」
私は言う。
根拠なんて、今まで来た夏しかないけれど。
「夏の虫も、ええと、恨んでないと思う」
「何で夏の虫?」
「あー、えーと」
「モヤシの頭の中で物語つくってたな、モヤシの癖に」
私は沈黙する。恨みがましく。
「そうだね、夏はまた来る。それで、虫もまた友達になって」
言って、コゲマメが微笑む。
「今度こそでかいカブトムシを捕まえるんだ!モヤシになんか負けない!」

蛍の光の中、
私たちは笑いあったものだった。


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