夕立


コゲマメの家で宿題をしているとき、
夕立がやってきたときのことを覚えている。
コゲマメは苦手な読書感想文にうんうんしていて、
私は適当に問題集を解いていた。
しばらくして、手元が夕方にしてはちょっと暗いなと思ったら、
コゲマメが洗濯物を取り込んで走り回っていた。
「何してるの! 雨来るよ!」
コゲマメの手伝いをして、私は洗濯物を引っぺがして走った。

最後の洗濯物を取り込んだとたん、
かなり強い雨が降ってきた。
「夕立だね」
「言わなくてもそうだよ。モヤシの癖に」
コゲマメは洗濯物をたたんでいる。
なんだかうれしそうに。
「わくわくするね」
コゲマメはそんなことをいった。
「雷と猛烈な雨と、たまにくるとワクワクする」
「そんなものかなぁ…」
「なんかさ、夏が全部で生きてる生きてるって言ってるみたいで、いいな」
「コゲマメにはそう聞こえるの?」
「うん、すっごい生きてることの自己主張だよ」
コゲマメは心からうれしそうに。
コゲマメが心から、生きていることを喜んでいるかのように。

雨は生きる音だとコゲマメは言う。
空が生きている。
大地が生きている。
植物が、動物が、昆虫が生きている。
人も生きている。
そしてなにより、夕立は夏が生きている。
雄叫びをあげて、夏は走る。
そんな風に生まれてしまったのなら、
そんな風に夏は生きるしかないような気がした。

雷が大きく鳴り、
ひときわ雨音が強くなる。
コゲマメの洗濯物は、様々の大きさがあるけれど、
コゲマメのものでないものもあるけれど、
コゲマメ以外の家族を私は見たことがない。
「ねぇ、コゲマメ…」
私は聞こうと思った、そうしたら、
「家族だったら、この夕立を友にして吼えまくってるよ」

さらりとコゲマメは答える。
私は思う。
それは夏そのものじゃないか。
あっけにとられた私に、
「何ぽかんとしてるのさ」
笑ったコゲマメは夏の顔をしていた。

雨は降り続いている。
生きている生きていると吼えながら。


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