俺は時の檻で嘘をつく 3月4日
3月4日。
何度これからの日々を繰り返しただろう。
3月13日までの日々。
それは、何度も繰り返されて、
俺は時の檻から出ることができない。
3月4日はいつも雨。
何回繰り返しても、この日は雨だ。
時の檻から出たら、別の3月4日に会えるかもしれない。
夜、俺は働くということをする。
水商売。
バーテンダーでなく、ホストと思ってほしい。
酒が水のように。
そして、呼吸をするように嘘をつく。
きれいだね、かわいいよ、だいすき。
金を得るため。
それが仕事と割り切った笑顔。
笑顔も嘘。
客は金を持ってくる。
そういうものだと俺は思っている。
あまりにも何度も繰り返されるものだから、
俺の中で何かがマヒしているんだと思う。
金は増えてブランド品になり、
どうでもいいことに使われる。
そう、13日まで、どうでもいいことに。
どんちゃんさわぎ。
3月4日はなぜか騒がしい。
女がシャンパンタワーにドンペリをどうしたこうした。
わきあがる歓声。
俺はこれだけ騒がしいならいいかと、タバコを吸いに勝手口から出た。
いてもいなくても、歓声がおさまらないことは、
何度も試して知っている。
タバコの銘柄は、下っ端がいつも覚えて買ってくる。
覚えるのはいいことなのか悪いことなのか。
不意に、今までの3月4日になかったことが、そこにあった。
長髪の女学生が倒れていた。
耳にピアス。
それから、スカートが異様に長い。
その不良娘が、雨の中倒れている。
古風な不良娘だな。俺はそう思った。
俺は、今までにない彼女の存在を面白く思った。
「よぉ、お嬢さん」
ずぶ濡れの不良娘は、顔だけようやくあげた。
「そんな寒いところにいないで、あったかいところでいいことしようよ」
「やだ」
「せめて、酒でも飲みな。あったまるよ」
「やだ。酒は二十歳になってから」
「それじゃ、タオルとお湯もってくるから。いきだおれるなよ」
「あ、うん」
不良娘はぽかんとした。
「あったまったら、ちゃんと雨風しのげるとこいけよ」
「なんでそんなこと言うのさ」
不良娘は、不思議そうに俺を見ている。
「2万回を超えるループで、初めてあんたが現れたから、かな」
嘘ともホントともつかない。
ただ、俺にとっては真実で、
時の檻で初めて不良娘が現れた。
親切にするのは、それだけでなく、
不良の格好している割に、目が限りなくピュアだった。
彼女に、3月13日までの時間を、賭けてみようと思った。