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「他に中継地点はあるの?」
ネネはパラガスにたずねる。
「うーん」
パラガスは考え、
「今はぼんやりしているでがす」
「そうなんだ」
ネネは納得した。きっと遠くまで線が続いているからなのだろう。
ネネは看板工のいる、密集看板を見る。
渡り靴を履いている所為か、
無数の線が見える。
線はきっとまっすぐじゃない。
くねくねしたり、まっすぐだったり、いろいろな線があって、
あるいは回り道したりするのだろうと、ネネは思った。
「ここからはどこが近いの?」
ネネはたずねる。
「レディのお店のほうが近いんじゃないかな」
鋏師が声をかける。
「ほら、右の上のほうの看板」
鋏師が指差すそこに、看板がある。
「レディ・ジャンク・アーツ」
鋏師が読み上げる。
「商店街の一角にお店を持っているよ。器屋よりは近くのはずだよ」
「どんなお店なの?」
「ジャンク屋みたいな感じだよ」
「それでジャンクアーツ?」
「そんな感じだね」
鋏師が肯定する。
ネネもうなずいた。そういう職業もあるのだろう。
「レディは端末を扱えるでがす」
「たんまつ?」
またわからないことが出てきた。
ネネは眉間にしわを寄せた。
パラガスはその顔を見て、説明を始めた。
「端末は、線がどこまで来ているのかを記録するでがす」
「記録?」
「ネネがどこまで線を辿れたか、記録できるでがす」
「記録するとどうなるの?」
「また朝凪の町に来たときに、そこから線を辿れるでがす」
「ふぅん…」
ネネは考える。
「ということは、神社をわざわざくぐることはないのね」
「そういうことでがす」
パラガスは肯定した。
「まだ時間はあるでがすが、レディの端末があったほうが、ネネはやりやすいと思うのでがす」
「そういうことで線が続いてるのかな」
「そこまではわからないでがす」
ネネはネネなりに納得した。
ネネが朝凪の町に居つくには、いろいろな人を経由しないといけないらしい。
ネネはそれを不快とは思わない。
線を辿って何が得られるのか。
最後まで見てみたい気がした。
「レディのお店まで一緒に行くよ」
鋏師が申し出る。
「レディのお店に僕の依頼も届くんだ。それを見に行くついでだけど」
「まぁ、そういうことなら行こうか」
「明るい声も出せるんだね。友井さん」
ネネははっとした気がした。
いつもぼそぼそ話していた気がする。
ぶっきらぼうだった気がする。
なんでだろう。
なんでこんなに楽しいんだろう。

鋏師はレディのお店への線を示す。
ネネの線と、看板から伸びるレディのお店への線。
二つが重なってくっきり見える。
ネネはしっかり確認して、歩き出した。
「いってらっしゃいでがす」
パラガスが彼らを見送った。

鋏師のわらじの音。
ネネの渡り靴の音が響く。
看板街を抜けて、金網がある看板街の端っこまで来て、
扉を開け、出る。
風がそよいで、ネネの髪を揺らした。
視界が静かになった気がする。
看板街が視界でうるさかったせいかもしれない。

線が商店街に続いている。
ネネは思いついたように眼鏡の位置を直す。
決して癖ではない。
けれど、この見えることを見直したい気がした。
新しい世界の端っこに、ネネはいるような気がした。
ネネの知っている商店街と違う感じなんだろうか。
それはどんな商店街だろうか。
レディとはどんな人なのだろうか。
端末とはなんだろうか。
『ネネは生き生きしてるです』
ドライブがささやく。
「どうかはわかんないけど、どうにかしたいとは思うよ」
『ネネの意思で線を使うとき、すごいパワーが出ると思うのですよ』
「どうだろう。線って変えられるの?」
『パワーが必要なのです』
「そのパワーって何?」
『わかんないですけど、きっとパワーなのですよ』

ネネは軽くため息をついた。
まだまだわからないことが山ほどあるのだ。


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