レディのお店


ネネは鋏師と歩く。
車でまっすぐだったり、くねくねした道もあったかもしれない。
ネネは迷わず鋏師についていった。
線が見える。
多分そっちに向かって行っていいらしい。
道から曲がって、商店街に出る。
うすぼけて古い感じの、シャッターがいくつか下りている商店街だ。
アーケードが一応あるが、
どうも手入れをしていない感じだ。
朝凪町というのは、どうもあちこち古臭いらしい。

鋏師が歩く少し後ろを、
ネネはドライブを乗せて歩く。
人がいる。
今までぜんぜん逢わなかったかもしれない、人。
多分普通の朝凪町の住人なんだろう。
どこか外観と服装がちぐはぐしている気がする。
ピシッと決めているイメージの人も、服がしわっぽいとか。
古臭い服装を決めている人が、流行以上に決まっているとか。
ネネは他人をあまり見たことがない。
興味が全然なかったからだ。
鮮やかな赤のシャツを着たものがギターケースを背負っている。
きりりと決めた青年が、街角でバイオリンをひいている。
人を見るのは楽しい。
浅海の町にも、こんな人がいたんだろうか。

「ともいさーん」
鋏師が大きく声をかける。
「わるい!いまいく!」
ネネはバイオリン演奏者から離れてかけていった。
実は聞きたかったことは我慢して。

「そんなに面白く見える?」
鋏師は尋ねる。
「面白いよ、すごく」
ネネは答える。
「レディの店はもっとおかしなことになってるよ」
「それは楽しみだね」
「たのしみ?」
「楽しみだよ」
鋏師が歩きだし、ネネはあとを追った。
靴とぞうりが個性的な音を立てる。
その下に、いつもの線。
迷子にはならないだろうが、
どういうものなんだろう。一体。

「ぐるぐるをうります」
「何でも絞ります。絞り職人」
「朝凪饅頭はいかがですか」
「もじゃもじゃ来たれ」
「見解をさまざまに。眼球切り替え」
「幸運の金魚はいかがですか」
商店にはいろいろなものが置かれている。
看板街から続いているのが、ここでお店を出しているのかもしれない。
看板街は朝凪の町の広告塔というものかもしれない。

やがて、鋏師が商店街の一角で立ち止まる。
「ここ、レディ・ジャンク・アーツ」
ネネはレディの店を眺める。
ぱっと見、箱がおいてある。
箱にはさまざまの女性が描かれている。
「この女の人のつけている端末が、売り物らしいよ」
ネネはそういわれ、どんなものだろうと覗き込む。
いたって普通に見える。
「指輪してたり、腕輪してたりするね」
「それが端末の軽量化したものらしいよ」
「ふむ」
ネネはネネなりに納得した。
そして、別の箱も見る。
普通の体格の女性の、一部が大きくなったような、
足だけ肥大とか、胸だけ肥大とか。
ネネは目を白黒させる。
「なにこれ」
ネネはつぶやく。

「それは昔のヴァージョンの端末だよ。身体に埋め込むからなくさない」
女性の声が説明してくれた。
ネネは振り返る。
そこには、女性がいた。
肩までの黒髪。金の目と美貌。身体にぴったりのつなぎ。
ただ、左手には袖がない。
左手は肥大化して、化け物のように大きくなっている。
ネネは声が出なかった。
「こういうのに慣れてないんだね」
ネネはおろおろする。どういいつくろったらいいんだろう。
「まぁ、はじめまして。あたしがレディだよ」
「友井ネネです」
「よろしく、ネネ」
レディは挨拶すると、店内をぐるりと見た。
「あたしはこんな端末を売っている。端末に届いた依頼もここを経由するよ」
「本人の元に届くのではない?」
「昔みたいに異形になるのが嫌で、端末毛嫌いするのもいてさ」
レディはからから笑う。
「僕はそういうわけで、端末の小さいのだけもらって、依頼はここで受け取ってます」
「なるほどね」
「ネネはどれがいい?」
レディが問いかけた。


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