理でないこと


授業が始まる。
テストの採点は、まだ終わっていないらしい。
ネネはちょっとだけ、ほっとする。
ネネの点数もそうだが、
解答を占ってもらった人たちの反応を見るのが怖い。
当たっていたら怖いと思う。

ネネは授業を受けながら、ぼんやり考える。
誰だかが、命は理にのっとった、仕掛けみたいなことを言っていた気がする。
粘土細工師だろうか。
それとも器屋だろうか。
器屋は、理の器を探していると聞いた。
「いずれ後悔をしますよ」
ネネはぼそっとつぶやいてみる。
教師には聞こえなかったらしく、そのまま授業が進む。
器屋が言っていた言葉。
後悔はつきものだと。
理にのっとっていた器屋は言っていた。
命は後悔を産み出す仕掛けに似ていると。
そんなことも言っていた気がする。
(後悔かぁ…)
ものすごく後悔をするというのはどういう時だろう。
ネネは後悔が嫌いだ。大嫌いだ。
裏切られたくないから、誰とも付き合わない。
努力が認められないのが怖いから、努力しない。
いつも居眠りをしていた数日前。
ネネはそれまでの生活を後悔する。
何で勉強しなかったんだろうと。
わかるということは、とても楽しいじゃないかと。
努力は自分が認めればいいじゃないかと。
それ以上に、後悔をすることがあるだろうか。
勉強はまだ取り返しがつく。
でも、もっと取り返しのつかない後悔。
それは一体どういうものだろうか。

授業を受けながらネネは思う。
何か取り返しがつかなくなったとき、
自分はどう思い、どうするだろうか。
後悔は悔しいだろうか。悲しいだろうか。
周りに誰も寄せ付けなかった日々。
どうあがいても、教室の中に一定間隔で人がいる。
みんながいるとも思えないが、
一人でいるとも思えない。
たとえばこの教室のみんながいきなり、「何か」でいなくなったら。
ネネはそれを後悔するだろうか。
(後悔というより、理不尽かな)
ネネは思い直す。
でも、たとえばハヤトが何かでいなくなったら。
気になり始めたばかりの、多分友人。
異性だから特別なのかもしれないが、まだ、友人。
生け花を生けているのを描きたいと言っていた、友人。
でも、異性。
恋人ではない。異性の友人。
ハヤトがどう思っているかを考えたことはないが、
ネネはハヤトがいなくなったら嫌だと思う。
ハヤトがネネをかばっていなくなったら、
もっと嫌だと思う。
考えに根拠があるわけではないが、
ハヤトがネネをかばって、
たとえば戦闘区域で、ネネをかばって死んじゃうとか。
考えただけで、心が冷えた。
それは嫌だ。
恋人とかじゃないけれど、
多分ハヤトがいなくなったら、死んだりしたら、
ネネはとても後悔する。
朝凪の町にハヤトがいるというわけではないが、
なんだかネネは心に痛みらしいものを持った。

最初の授業が終わる。
次の授業までの少しの時間。
ネネはテキストをしまいながら、いろんなことを考える。
朝凪の町の話は、
ネネの中にだけあるものだ。
でも、ハヤトはファンタジー小説を話題に出して、
タミがリンクしている可能性を持ってきた。
タミが何かの力を持っているのかもしれない。
ネネも世界をまたいでいるし、
タミが異世界に行こうとも、ネネはそれほど驚かない気がした。
ネネは思う。
殺された人が言っていた、
食っている占い師。
イメージは重なるけれど、確たるものはない。
代価を食っている占い師。
代価を多分力にしている。
そして、代価をとりながら、人の鎧を付けている。
集団は鎧だ。
佐川タミを守る鎧で、代価で、武器なのだと。
タミの微笑みはきれいなのに、
タミは小さいのに、
ネネはなんだかタミが怖い。
タミの行動が、理を横破りにしている気がする。
ありえないことがあっているような気がする。

「いずれ後悔をしますよ」
ネネはぼそっとつぶやいてみる。
聞いている人はいなかった。


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