集団


ネネは教室に向かう。
なんだか騒がしい。
「はいはい、一列に並んでねー」
「本当にあたるんだって!」
「代価がいるらしいよ」
「えー、まじー?」
ネネの教室の前は人だかり。
教師が払ってくれるべきだろうが、
教師まで行列に並んでいる有様だ。
ネネはあっけにとられる。
「こんな具合だ」
ボソッとハヤトが言う。
「こりゃ中に入りづらいわ」
ネネも納得する。
午前中だけ授業の予定だが、
こんな調子で授業が出来るだろうか。
図書室で時間でもつぶすべきだろうか。
欠席は癪だなぁと思う。
「どうする?」
ハヤトが尋ねる。
「チャイム鳴ったら散れるだろうし、それを待つよ」
「そうだな」

二人して廊下で、
チャイムが鳴るのを待つ。
ぎゃいぎゃいわいわい。
集団は占いしてもらおうと詰め掛ける。
ネネは占いを信じていないわけではない。
ただ、タミが怖いように思われる。
タミは何かの力があるような気がする。
以前、占ってもらった、曖昧なものではなく、
もっとズバズバあててきているのは、
きっと何かの力を得ているのだろうと思う。
それが神がかり的なものに見えるから、
こうやって人が来るのだろう。
「友井」
ハヤトがボソッと声をかける。
「うん?」
「佐川はなんだと思う?」
「わかんないけど、この数日で大変なことになってる」
ネネはうまく説明が出来ない。
曖昧な占いが、テストの答えをあてるほどになること。
具体的な占いができるようになる。
そして、代価をもらう。
人の命だったりする。
それはまるで、朝凪の町の占い師ではないか。
占い屋のバーバとは違う、
代価を食っているらしい占い師。
朝凪の町なんて、ハヤトに言ったところで通じない。
ネネは心にしまいこむ。
「友井」
「うん?」
「ファンタジー小説とか読むか?」
「なんでまた」
「別の世界に行くとか言うやつ」
「あんまり読まないけど、設定はわかる」
「別の世界と何かがリンクするとかいうのはどうだ?」
「佐川さんが別世界とリンクしてるって?」
「今や佐川様だけどな」
ハヤトが集団に目をやる。
ネネも見る。
ニュースでチラッと話題が出た所為か、
それともテストがあたっていたのか、
どんどん集団が膨れていく。

ネネはハヤトの仮定を思う。
朝凪の町の占い師。
浅海の町のタミ。
なるほど、つなげれば納得いく。
現にまたいでいるネネがいるわけだ。
タミが二つの世界をまたいで、
何らかの力を得ているとすれば、
神がかり的にあたるのも、心を握るのもわかる。
チャイムがなる。
それでも動かない集団は、
教師が蹴散らしていった。
ばらばらと集団が崩れる。

「入れるかな」
「どうだかな」
ネネとハヤトは廊下からぽつぽつと歩き出す。
さすがに止めるものもなく、二人はいつもの席に着いた。
朝のホームルームが始まる。
担任のいつもの話。
特筆することのない朝。
そこに、いつものことでないこと。
「佐川」
担任がタミを呼ぶ。
「はい」
「ニュースに名前が出たらしいが、なんか困ってることはあるか?」
タミはにっこり微笑んだ。
ネネが感じるところでは、
あたたかい微笑の下が寒い。
「何にも困ってることはありません」
「そうか、困っていたらいつでも相談しなさい」
「はい」
担任は最後にそれだけ言い残すと、ホームルームを終わりにした。

タミは微笑んでいる。
得体の知れない力のようなもの。
何かの力があるような気がする。
ネネにはそれがわからない。
「佐川様」
「佐川様」
ひっきりなしに呼ばれている。
「だめよ、授業が始まってしまうわ」
タミは笑う。
困ったような顔をしているが、
心の底に不安を持たせる気がする。

チャイムがなる。
授業が始まる。
ぶつくさ言いながら生徒が席に着く。
そのうちチャイムも無視するかもしれない。
ネネはそんなことを思った。


次へ

前へ

インデックスへ戻る